第5話 仲間たち(その11)
顔色を失った翠が、冬祐を見る。
「冬祐様っ」
冬祐が慌てて銃を下ろす。
「違うっ。撃ってない。暴発だっ」
言ってから冬祐は気付く。
引き金を引いてないにもかかわらずエネルギー弾が発射された――それが、ナビ子の仕業であることに。
アニーは倒れることなく、欠けた顔面で冬祐を睨み付ける。
そして、それまでとは違う険しい口調で冬祐を責める。
「撃つのか。自分と同じ境遇の彼を。自分たちの明日の姿かもしれない彼を……」
そこまで言った時、背後で“単眼スライム”が破裂した。
予想だにしていなかった展開に、冬祐、竹児、翠、ケイタが息をのむ。
その四人が見ている前で“単眼スライム”から解放された由胡とジャージ姿でシニヨンヘアの若い女――我孫子遥麗が、アニーを左右から押さえつける。
そして、遥麗が表情を強張らせているアニーにささやく。
「あなたが狙撃されたことで“彼”の意識が動揺して、出られることができました」
さらに、由胡。
「“彼”を匿っていたことを母上様はご立腹だよ。だから、このまま連れてくよ」
遥麗と由胡の背後で、バックヤードへの扉が開く。
「やっ、私は……」
我に帰ってじたばたと抵抗するアニーだが、左右からがっちりと態勢をホールドされていることで逃れることはできず、由胡と遥麗に引きずられて扉の奥へと消えていく。
その様子を冬祐と竹児、翠とケイタは、ぽかんと見送るしかない。
そこへ――。
「冬祐ええええええええっ」
――カウンターから飛び出してきたヒメが、冬祐の胸元に飛び込む。
「大丈夫か、ヒメ」
よほど怖い思いをしたのか、ヒメは冬祐のワイシャツにしがみついて泣きじゃくる。
そして、ぐずぐずと鼻声で答える。
「うん、うん。大丈夫、大丈夫だったよう。うああああ」
あまりにも大袈裟なその様子に、冬祐が苦笑いを浮かべる。
そのかたわらで――
どさり
――翠が倒れた。
「翠?」
冬祐が慌てて翠のかたわらにヒザをついて、抱き起こす。
「失礼しますっ」
同様にヒザをついたケイタが、開いたまま焦点を合わせていない翠の眼球を覗き込む。
そして、冬祐を見る。
「電圧低下です」
冬祐は定睦の言葉を思い出す。
いよいよ、限界が来たようだった。
改めて抱きかかえた翠に、声を掛ける。
「翠、しっかりしろ。もう少しだぞっ」
「冬祐……様……」
「しっかりしろ。もうすぐだぞ。快翔に……オーナーにカニ団子を食べさせるんだろ」
翠は応えることもできず、力なく微笑む。
そこへ、冬祐の背後から竹児が声を掛ける。
「冬祐。先に行っててくれ」
冬祐が振り返ると、竹児は少し離れた所でうずくまって震えているネコサイズの“単眼スライム”を見下ろしていた。
カウンター内で破裂したものが、エントランス全体に拡散したのち再凝集したらしい。
竹児はその場にヒザをつくと“単眼スライム”を覗き込みながら、冬祐へ告げる。
「言葉が通じるっぽい。ダンジョン化は解除したそうだ」
“単眼”が、ぎょろりと冬祐を見る。
その目には確かに知性の輝きが見て取れた。
竹児が続ける。
「“案内担当”が言ってたことが気になるから、話を聞いてみる」
そして、ケイタを見る。
「いいだろ?」
ケイタが即答する。
「はい。ボクも興味があります」
竹児は改めて冬祐を見る。
「ということなんで、先に行っててくれ」
「わかった」
翠を抱き上げた冬祐は、カウンター左の“到着”と書かれた扉へ飛び込む。
ダンジョン化が解除されていれば、この先は――。
その予想通り、扉の先は“イソギンチャクを乗せたカニがいる部屋”だった。
冬祐は考える。
カニ――正確には甲に乗ったイソギンチャクだが――は、さっきのように触手を伸ばしてくるのか?
その時には、どう対処すればいいのか?
カニに任せるのか?
その場合は、また、あの“サカユメ”がリピートされるのか?
冗談じゃないぞ、今の翠にそんな時間的余裕なんかあるものか。
だったら……自分がカニを狙撃していい――のか?
緊張しながら奥の扉へ足を進める冬祐に、カニが告げる。
「サカユメ処理の完了を確認。お通りください」
意味はわからないが、その言葉にほっとする。
そして、たどりついた奥の扉を開く。
そこは初めて訪れた時のまま、鍾乳石が垂れ下がり石筍が林立する“女王様の間”だった。




