第5話 仲間たち(その10)
その先の部屋も、冬祐には見覚えのある部屋だった。
そこは“カウンターのある部屋”だった。
カウンターの中には初めて通った時、そして、出発した時と同様に“案内担当”のアニーがいる。
しかし、見覚えがあるのはそこまでだった。
冬祐の全身を緊張が覆っている。
アニーのとなりにいる、体高二メートルほどの“単眼スライム”によって。
そして、冬祐は気付く。
カウンター、アニー、そして“単眼スライム”――この組み合わせに気付く。
“単眼スライム”が、かつてアニーがカウンターで撫でていたネコサイズの“謎生物”――“コールタール目玉”の巨大化した姿であることに。
その時――
「……遥麗」
――不意に出た竹児のつぶやきに、冬祐は我に帰って目を凝らす。
由胡とヒメ、さらに、もうひとり冬祐の知らない女性が“単眼スライム”にまとわりつかれ、捕らわれていた。
「あれか。“単眼スライム”てのは」
「ああ」
ささやく竹児に冬祐が頷いて、定睦から授かった銃を構える。
狙うのはスライムの頭部に開いた、いかにも弱点ぽく見える大きな目玉。
そこ以外を狙ってもダメージを与えられないことは、すでにボラガサキ市の公園跡地でわかっている。
しかし、そこへアニーが割って入る。
「待って。お願い……許してあげて」
「は?」
思わぬ言葉に、冬祐は銃を下ろす。
アニーも捕らわれているんじゃないのか?
改めて目を凝らす。
確かに由胡たちはスライムにまとわりつかれている。
というより、スライムの中から顔だけを出している、完全に自由を奪われている。
が、カウンター越しに見えるアニーは、どこにもスライムが付着していない。
つまり、アニーは捕らわれていない?
じゃあ、どういう状態なんだ、この人は???
そんなことを考えて戸惑う冬祐に、アニーが続ける。
「たったひとりの世界の生き残り。あらゆる時空において帰る世界も、ただひとりの同胞もなくした孤独な彼を……撃たないで」
その意味不明な言葉に、冬祐の戸惑いが増す。
そこへ、あえぐような声が届く。
――冬祐……助けて……冬祐え――
感覚共有によって伝達された、ヒメの声だった。
「ヒメっ」
思わず叫んだ冬祐の声に、スライムの体表からヒメの小さな手が伸びて虚空をまさぐる。
その様子に冬祐は“戸惑っている場合ではない”と、改めて銃口を向ける。
そして、銃口を“単眼スライム”へ向けたまま、アニーへ告げる。
「ヒメを……みんなを、解放してほしいんだけど」
アニーが答える。
「それは……今はできない。彼は我を失っている。覚醒して……混乱している。時が経てば私が説得するから……約束するから。彼女たちを解放することを。そして、正常な空間に戻すことを。だから、お願い。彼を撃たないで」
その言葉から、これまでの空間異常が“単眼スライム”の仕業であるとわかった冬祐だが、だからといってアニーの言う通りに任せていいのかはわからない。
なによりも、スライムに全身を飲み込まれているヒメの衰弱した声が、冬祐の頭で“NO”を選択させている。
「そんなこと、言われたって……」
迷う心中を表すように震える銃身へ、ふわりとナビ子が降り立った。
「ふふっ。失礼しますわよ」
その真意が読めず戸惑う冬祐に、ナビ子が微笑む。
直後にその姿が薄くなり、銃に染みこむように消えていく。
そして――。
銃声。
発射されたエネルギー弾が、アニーの側頭部を吹っ飛ばした。




