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第5話 仲間たち(その7)

 次の部屋は、冬祐には見覚えがある部屋だった。

 イソギンチャクを背負った巨大なカニが控えている黒壁の部屋である。

 竹児がつぶやく。

「この部屋は来たことがあるが――」

 言いながら、カニに目をやる。

「――このカニは動かなかったはずだ」

「僕の時もそうだった」

 冬祐は、上半身だけのアンドロイドを抱えて素通りしたことを思い出す。

「じゃあ、次、開きます」

 ケイタが背を向けて扉を開こうとした時、カニが動いた。

「来るぞっ」

 竹児が叫んだのと同時だった。

 カニの甲からイソギンチャクの触手が伸びて、翠とケイタの頭頂部に接触する。

「翠っ」

「ケイタっ」

 冬祐と竹児が叫ぶ。

 しかし、翠とケイタは振りほどこうともせず、凍り付いたように動かない。

 カニが、ぶくぶくとつぶやく。

「サカユメ処理がまだです。実施します」

 冬祐が眉根を寄せる。

「サカユメ処理――って、なんだ?」

 そのとなりで竹児が肩をすくめる。

「わかんね」

 不意に周囲の壁が二、三度、瞬いた。

 直後に、室内が冬祐にとって初めて見る“がらんとしたリビングルーム”へと変わる。

「なんだ、ここは」

 冬祐は、カーテンすらない窓からの陽射しが眩しいその室内を見渡す。

 立ち尽くしている翠の正面に、無数の光の粒子が現れた。

 粒子は見る間に集束して、スーツ姿の青年イケメンを形成する。

 青年がささやく。

 ――翠、忘れ物はないよな――

 この男、もしかして――冬祐がそんなことを思った時、翠が口を開いた。

「快翔様あ」

 やっぱりか――冬祐は心中で声を上げる。

 このイケメンが翠のオーナーである“快翔様”だった。

 快翔が室内を見回して、ひとりごちる。

 ――これで引っ越しの準備は全部終わった、と――

 翠が答える。

「はい。すべて終わりました。あの」

 ――どうした?――

「ちょっとイヤな夢を見たんです」

 ――どんな?――

「あたしだけ、ここに置いて行かれる夢です」

 その言葉を受けて、ぽかんとした表情に変わった快翔へ翠が続ける。

 泣きそうな顔で。

「あたしも連れて行ってもらえるんですか」

 快翔が笑う。

 ――あたりまえじゃないか――

 翠の表情が輝く。

 快翔が翠に顔を寄せる。

 ――僕の生活は、翠なしじゃありえないよ――

 そのまま、抱き寄せて耳元でささやく。

 ――新居に移っても、そして、これからも、ずっとよろしく。僕の翠――

 快翔が言い終わると同時に周囲が暗転した。

 薄暗がりの中で、冬祐がつぶやく。

「なんだ、これ」

 その直後、周囲の様子が“カーテンや雨戸を閉めている暗いリビングルーム”に変わった。

 調度品はすべてそろえられていて、窓の大きさ、扉の配置、壁紙のデザイン、すべてがさっきとはまったく異なっている。

 竹児が口を開く。

「さっきのとは別の部屋、いや、別の家みたいだが」

 しばらくの間、動くものも音もない時間が続く。

 やがて、遠くで解錠した玄関ドアを開く音が聞こえ、続けてリビングの扉越しに廊下の照明が点るのがわかった。

 そして、小さな足音が近づいて――リビングの扉が開く。

 入ってきたのはひとりの少女。

 黒髪のサイドテールに、大きめのボーダーシャツとグレーのロングスカート。

 翠と同じくらいの年齢に見える、よく言えば“真面目そうな”悪く言えば“地味な”ミドルティーン。

 翠と同様に、イソギンチャクの触手が接してからずっと立ち尽くしているケイタがつぶやく。

「おかえりなさい」

 その頬に涙を伝わせて。

 少女は手にしていたボストンバッグをどさりと床に落とし、ケイタへと駆け寄る。

 そして、赤い頬でケイタを抱きしめる。

 つぶやきながら。

「ごめんね、ごめんね。ケイタ」

 そして、さっきと同様に周囲が暗転する。

 なにを見せられたかわかっていない冬祐が、暗がりの中でひとりごちる。

「だから……なんなんだよ、これって」

 竹児が少し考えて、つぶやく。

「わかった。サカユメだ」

「サカユメ?」

「話していいことかわからないけど……ここだけの話にしてくれるか」

「うん」

 竹児が語り出す。

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