第5話 仲間たち(その4)
冬祐はここまでの経緯を、竹児たちに語って聞かせる。
“女王様”に指示されて、翠を迎えに行ったこと。
そこで現れた幼なじみが空間圧縮によって“帰り道”の宅配ボックスを持ち去ってしまったこと。
その幼なじみから助けを求められてたどりついた先で、街を破壊する“単眼スライム”に妖精のヒメをさらわれたこと。
興味深げに真剣なまなざしを向けるケイタの横で、竹児が頷く。
「なるほど。ほぼ、一緒だ」
そして、自身の経緯を告げる。
「オレもババアからケイタを連れてくるように言われてナビ子と一緒に出発したんだが、やっぱり“帰り道”になってる郵便ポストを昔の知り合いに持って行かれた。で、その知り合いからのSOSで指定された座標に駆けつけてみたら、持って行かれた郵便ポストがあったんで突入して……今だ」
翠が首を傾げる。
「“単眼スライム”は、見ませんでしたか?」
答えたのはケイタ。
「見てないです。なんなんですか、それって」
冬祐も竹児に問い掛ける。
「“昔の知り合い”っていうのは、小学生時代の幼なじみで芦川由胡という名前では?」
しかし、竹児はあっさり否定する。
「誰だ、それ。知り合いってのは我孫子遥麗。中学の時に来た教育実習生だよ」
冬祐にしてみれば、そっちこそ“誰だ、それ”である。
つまり、自分は芦川由胡によって振り回され、竹児は我孫子遥麗なる存在によって振り回されたということらしい。
じゃあ“芦川由胡”ってなんなんだ? “我孫子遥麗”ってなんなんだ?
同じことを思ったらしい竹児が、ナビ子を見る。
「それぞれがそれぞれの昔の知り合いに、こんなエンもユカリもない世界で再会するなんてどう考えてもおかしいだろが。遥麗や由胡?――てのは、どういう立場なんだ?」
ナビ子は竹児の目をまっすぐに見つめて、にこにこと答える。
「知りませんわ」
しかし、それまで以上にせわしなく上下するナビ子の翅に、竹児の目が鋭く光る。
「なにか、知ってやがんな」
ナビ子は慌てて竹児から目を逸らせる。
「いえ、私はなにも――ですわ」
言いながら、さらに翅のぱたぱたが激しくなる。
竹児が冬祐に笑う。
「ナビ子は嘘をつくと羽の上下が激しくなるんだ」
しかし、冬祐の耳にその声は入っていない。
冬祐は考えていた。
明らかに助けを求めていた由胡の様子、暴れる“単眼スライム”――そして、それが逃げ込んだ宅配ボックス内の異常空間化。
これらを整理してみると、異常空間化は“単眼スライム”の仕業なのかもしれない。
正体も目的もわからないが“単眼スライム”によって宅配ボックスの中である“女王様の世界”に空間異常が生じた。
さらに、それが由胡と“遥麗なる竹児の知り合い”にまで“なんらかの実害”をもたらしたことで、由胡と遥麗は自分と竹児に助けを求めた。
冬祐と竹児にとってそれぞれの“帰り道”である宅配ボックスと郵便ポストを残し、座標を告げて。
“単眼スライム”は、そのうちの“冬祐側の出入り口だった宅配ボックス”から外に出た。
由胡と遥麗がどうなったかは……わからない。
そこまで考えた時――
「ココロアタリはないか?」
――竹児に訊かれて、我に帰る。
「な、なにが?」
その言葉を受けて、テレビで見た関西芸人のように“聞いてないのかよっ”と大袈裟なリアクションでがっくりする竹児に代わって、翠が問い直す。
「冬祐様と竹児様の共通点です」
竹児が続ける。
「オレたちがこの世界に漂着したのは、案外と理由があるかもしれないぜ?」
理解した冬祐が答える。
「共通点といえば……年齢」
竹児が突っ込む。
「それはわかってる。他にないか?」
冬祐が思いつくままつぶやく。
「住んでたとことか」
「冬祐はどこだ? オレは大阪。都庁の近くだが」
その言葉に冬祐が反応する。
「大阪で都庁?」
「あるだろ、大阪城のとなりに」
「いや、大阪に都庁はないよ。都庁があるのは東京だけで」
今度は竹児が問い返す。
「東京って……なんだ?」
「首都。もしかして、そっちの首都って」
「大阪都だが」
「……」
「……」
それぞれが“なに言ってんだ”顔で見つめ合う冬祐と竹児に、ケイタが口を開く。
「もしかして、ですけど……竹児様と冬祐様は、別々の世界からこっちの世界へ漂着したんじゃないでしょうか」
「らしいな」
答えた竹児がため息をつく。
「やめだ。考えてもきりがねえ。それより、今の状況をなんとかしないと」
翠も頷く。
「ですね」
竹児が改めて全員を見渡して、声を上げる。
「じゃあ、再開するか。ダンジョンの探索を」
気が付けば、竹児が“リーダー”になっていた。




