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第4話 瓦礫に埋まる街(その11)

 冬祐はひたすら引き金を引き続けた。

 宅配ボックスへ逃げ込もうとしている、巨大な“単眼スライム”に。

 相手が人間ではないことで銃の対人抑制機構は無効化し、冬祐が引き金を引く都度エネルギー弾が発射される。

 しかし、そのエネルギー弾はスライムの体表を波立たせるだけで、なんのダメージも与えていなかった。

「冬祐様っ」

 背後からの声に振り返る。

 土埃の中を駆け寄ってくる翠が見えた。

「銃声が聞こえたので……大丈夫ですかっ」

 その隙を突くように“単眼スライム”の全身が、宅配ボックスの中にするりと消えた。

 静まりかえった瓦礫の中で、冬祐はがくりとヒザをつく。

 翠が周囲を見渡す。

「ヒメは、ヒメはどこに」

 冬祐が絞り出すように答える。

「“単眼スライム(あいつ)”に捕まった」

「え? ええ?」

 翠が“単眼スライム”の消えた宅配ボックスと冬祐の間で、視線をばたばたと行き来させる。

「“単眼スライム(あいつ)”が伸ばした手に掴まれて、そのまま……」

 冬祐は手元の瓦礫を掴むと、自身のふがいなさを八つ当たりするように地面に叩きつける。

 そして、立ち上がり、宅配ボックスへと足を進める。

 覗き込んだ宅配ボックスの中は“闇”。

 本来なら見えているはずの“カウンターのある部屋”ではない。

 戸惑い、侵入をためらう冬祐の背を押すように、翠が声を上げる。

「行きましょうっ。ヒメを助けにっ」

「そうだな。……そうだ」

 自分に言い聞かせるようにつぶやく、そして、叫ぶ。

「行くぞっ。ヒメを助けにっ――」

 しかし、宅配ボックスには向かわずに、背後の遠くに建つ多目的ホールを振り返る。

「――でも、その前に」

「はい?」

 上着のポケットから定睦直通の通話カードを取り出して、刻印を撫でる。

 すぐに声が返る。

 ――これは……通話カード? 誰だ?――

 ホーネットの声だった。

「え? あれ?」

 カードに目を落として戸惑う冬祐の様子に、翠が声を掛ける。

「どうしたんです?」

「ホーネットが出た。定睦さん直通なのに」

 その言葉に翠は“よしっ”とつぶやいて、小さく拳を握りしめる。

 翠にとっては、ふたりが一緒にいることが嬉しいのだろう。

 一方の冬祐はそれどころではない。

「どうすりゃいいんだ」

 つぶやきながら、改めてカードを口元へ寄せる。

 同時にカードの中でがさがさと音がして、定睦の声が返ってきた。

 ――ワシじゃ。どうした――

 冬祐は、ほっと息をついて答える。

「あ、このまま行きます。翠とも合流できましたので。おそらく、先生とはもう二度とお会いすることはないと思いますが……」

 ――そうか――

「で、お借りしてる銃とカードですけど……。どうしましょう」

 ――持って行け。餞別じゃ――

「いや、でも」

 ――構わん。気にするな――

 その言葉に、冬祐は胸が熱くなるのを感じた。

「……先生」

 ――ん? どうした――

「先生は……どうして、そこまで僕に……」

 ここまで定睦はずっと冬祐を助けてくれた。

 いまだに素性も目的も明かさない冬祐なのに。

 定睦が答える。

 ――翠のために、必死な姿を見せられたからな――

 しかし、それは……。

「確かに、僕は翠の願いを叶えるために動いてます。でも、それは最終的には自分のためなんです」

 翠のためではなく、冬祐自身が元の世界へ帰るためなのだ。

 それを知らない定睦に、冬祐は罪悪感を覚える。

 しかし、定睦は。

 ――その行動が翠をシアワセにするための行動なんじゃろ? ならば、最終的な目的などどうでもかまわん。ワシは常にアンドロイドの味方じゃ。そして、アンドロイドのシアワセに協力するのじゃ。納得したか? うおっ。こら、やめろ。苦しい。離れろ、わはは――

 それまでの真面目な口ぶりから一転した楽しげな声に、冬祐が眉をひそめてカードを見る。

 そんな冬祐の表情に――

「先生たちになにかっ?」

 ――翠が問い掛ける。

 カードの向こうで、定睦――とホーネットの間――に起きていることを知りたくてたまらないという表情で。

「いや、先生とホーネットがじゃれてる。楽しそうに」

「よおおおおおしっ」

 今度は隠そうともせずに、拳を握りしめて快哉を叫ぶ。

 なにが起きているのか想像できる翠とは対象的に、状況のわかっていない冬祐は戸惑いながらカードに頭を下げる。

「あの、わかりました。ありがとうございます」

 改めて告げる。

「行ってきます。定睦さんもお元気で」

 ――お? おう。また、縁があったら会おうぞ――

 通話を切る。

 そして、改めて宅配ボックスに、その扉の向こうで誘うような暗闇に向き直る。

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