第4話 瓦礫に埋まる街(その8)
意気揚々と出発したものの、三十分も歩かないうちに冬祐の足は重くなっていた。
もともと、走るよりも歩くこと、歩くよりも座ること、座るよりも横になることが好きな怠け者なのである。
とはいえ、冬祐をうんざりさせているのはそんな性格のせいばかりでもない。
瓦礫の山が延々と続いて風景に代わり映えがないうえ、時折、吹き抜ける風が土埃や微細に砕かれた建材を含んでいることから、風が吹く度にいちいち立ち止まって目と口を閉じて息を止め、風上から顔を背けねばならない。
そんな環境が“乾燥したグランドでのクラブ活動”などという“体育会系経験”のない冬祐を苛立たせているのだった。
逆にヒメは上機嫌だった、なぜか。
だからこそ疲れたとは言い出しづらいのだが、それでもそういう感情は自然に伝わる。
「疲れたの?」
「いや……少しだけ。それより――」
「なあに?」
「――機嫌、いいな。なんでだ」
気分転換になるかもと訊いてみる。
しかし、ヒメは意味ありげに笑うだけで。
「そうかしらあ。うふふふ。……当ててみて」
冬祐にしてみれば、疲れている時のなぞなぞほど神経を逆なでするものはない。
投げやりに答える。
「ひさしぶりに、ふたりきりになれたから」
「……」
ヒメは答えず、冬祐を見ている。
一方の冬祐としては“それでは、なぞなぞにならない”と諫める。
「ハズレならハズレって、ちゃんと言ってくれないと――」
そこまで言って、ぎくりと硬直する。
不意に視界が広がったそこは、足元でめくれ上がった石畳や芝生から少し前までは公園だったらしいことがわかる。
その一画にある、崩れた休憩所にひとつの人影があった。
「――誰かいる」
「いるね」
警察か、取り残されたアンドロイドか、それとも――冬祐は警戒しながら距離を詰める。
だらりと下ろした手で握る銃、その引き金に指を掛けて。
やがて、距離が詰まるにつれて人影の容姿がはっきりと見えてくる。
それは“黒いのっぺらぼう”というより“立体的な影法師”。
少なくとも警察じゃない、こういうデザインのアンドロイド――か?
そこまで考えた時“影法師”の頭部に、ひとつの大きな目が現れた。
「あいつだっ」
冬祐は思わず叫んで、銃口を向ける。
ヒメも叫ぶ。
「冬祐、あそこっ」
“影法師”の向こうに、宅配ボックスがあった。
默網塚解体工場のそばから由胡に持ち去られた、冬祐とヒメにとっては“帰り道”ともいうべき宅配ボックスが。
その宅配ボックスの開いた正面扉が、風に煽られてばたんばたんと音を発している。
「やっと、たどりついたっ」
冬祐が興奮のあまり、無意識に声を上げる。
同時に“影法師”が内側から破裂するように拡散し、最初にホーネットを襲っていた巨大な“単眼スライム”へと姿を変える。
その“単眼スライム”から、大きな手が伸びる。
一直線にヒメへと向かって。
その巨大な手のひらに、慌てて銃を構え直す冬祐は自分の右手にあるものと同じ“漂着者の紋様”があるのを見た――ような気がした。




