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第3話 駆け込み寺の大騒動(その2)

 冬祐とヒメは案内された控え室にいた。

 どのくらいの時間が過ぎたのかはわからない。

 窓から覗く外の様子から、日が暮れてかなり経つ。

 おそらく、深夜なのだろう。

 控え室とはいっても、あるのはソファセット、壁に一体化したスクリーン、そして、新聞と何冊かの雑誌だけ――の狭い部屋だった。

 ヒメが遠慮がちに声を掛ける。

「食べた方がよくない?」

 ジャケット女性があとから持ってきてくれた、ローテーブル上の天津飯はすっかり冷えている。

 冬祐がぼそりと答える。

「……腹が減ってない」

「大丈夫?」

 ヒメが心配するのも無理はない。

 二十四時間以上前、昨日の夜に里村邸でとった夕食が最後の食事なのだ。

「ううううう――」

 冬祐はうなりながら伸びをして、ソファに寝転がる。

「腹が減ってないわけないんだけどな」

 腕組みをしたヒメが、首を傾げる。

「疲れすぎてるのかな。だったら、とりあえず寝るとか」

「眠くもないんだよなあ」

 顔を上げると、ため息を挟んで続ける。

「たぶんだけど、昨日から緊張とか興奮とか、あと……恐怖とかがごっちゃになって、自律神経だか交感神経だかがパニックになってるんだと思う」

 初日の解体工場におけるアンドロイドたちの惨状は、確かにイヤな記憶として冬祐の頭に残っている。

 それでも、そのあとで招待された里村邸での豪勢な夕食と、寝具によってもたらされたリラックス感から、泥のように眠ることができた。

 しかし、今夜は違う。

 “悲鳴を上げながら逃げ惑うアンドロイドの大量虐殺”というホワイト団による地獄絵図と、翠が現れなければ自分が最初の一撃で白美に殺されていたかもしれないという恐怖が、冬祐の精神状態を“静かなる興奮状態”に追い込んでいるようだった。

 さらに、その翠が“長時間の手術を受けている最中である”ということも、無関係ではないだろう。

 緊張、興奮、不安、心配――そういった感情がぐるぐると渦を巻いて、冬祐の神経から安息を奪っているのである。

 食事や睡眠を取る気分になれないのは、むしろ当然のことだった。

 冬祐は上体を起こすと、心配そうに見ているヒメに軽く笑ってみせる。

「でも、大丈夫だろ。まだ、身体が耐えてるんだから。耐えられなくなったら腹も減るだろうし、眠くもなるだろうよ」

 少なくとも自分自身的には腹も減らず眠くもないという、考えてみれば“なんの不都合もない状態”なのである。

 そんな状態であるがゆえに、ヒメに心配を掛けていることが逆に申し訳なかった。

 気分転換にとスクリーンへ目を向ける。

「これはテレビ、だよな」

「情報端末。テレビとしても使えるよ。点ける?」

「うん」

 ヒメが潜り込んで映し出したのは、番組のメニュー画面だった。

 里村邸のゲストルームで見たものと仕様が違うのは、里村邸のものが一般家庭用だからなのだろう。

 さまざまなカテゴリが表示されているが、どれを見ていいのかわからない。

 なにしろ、知らない土地どころか知らない世界なのである。

 バラエティや、ドラマや、映画や、アニメを見たところで、そのすべてが初見であることを考えると、あまり楽しめるようには思えない。

 まったく情報のない作品だからこそ期待を持てる人間がいる一方で、定番作品を好む安定志向の人間もいる。

 冬祐は後者だった。

 そこへスクリーンに潜り込んだままのヒメが声を掛ける。

「ニュースでいい? ちょっと見覚えのあるのが出てる」

「いいよ」

 画面が一瞬フラッシュして、見たことのある鉄の壁を映し出した。

 ホワイト団の“祭り会場”だった。

 ライトアップされた鉄壁の前で、若い男のレポーターがホワイト団の一斉検挙を伝えていた。

 ただ、全員の逮捕とはいかず、一部の仲間は現在も逃走中で警察が行方を追っているという。

 そこへ短い電子音が来客を知らせた。

 冬祐がインターホンに駆け寄り、応える。

「はい?」

 モニタ画面が、あの箱形ロボットを映しだす。

「手術が終わりました。先生のお話は今からでもよろしいでしょうか。それとも明朝になさいますか」

「い、今からでお願いします」

 ドアの横にある操作盤の“開”に触れる。

 開いた扉の向こうで、ロボットが立っていた。

「では、ご案内します」


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