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第2話 祭りへようこそ(その6)

 冬祐の目を覚まさせたのは不規則な振動と吹き抜ける風、そして、まぶしく照らす直射日光だった。

 慌てて跳ね起き、周囲を見渡す。

 そこはトラックの荷台だった。

 すぐかたわらで倒れている翠をゆさぶる。

「翠、翠」

 その声にポケットから顔を覗かせたヒメが――

「起こしてみるよ」

 ――言い残して、翠の頭部へ潜入する。

 すぐに翠が跳ね起きて、周囲を見渡す。

「え? あれ?」

 そして、不安げな目で冬祐を見る。

「ここは……どこですか」

「わかんね」

 トラックが走っている道は舗装されておらず、左右に森が広がっていることから、山中を通る林道のようだった。

 ほぼ、真上にある太陽の高さから考えて、今が昼頃とすると数時間は眠っていたことになる。

 すぐ後ろについてきている大型トレーラーも、おそらくこのトラックの仲間のものなのだろう。

 やがて、周囲の木々が途切れて高い鉄の壁が姿を現した。

 なにかの建築現場なのか、上からクレーンとナイター照明が覗いている。

 その鉄壁を前に、冬祐たちを載せたトラックと後続のトレーラーが止まる。

 トラックの運転席から降りてきたのは、グローブ型電撃発生器の男とタブレット少女。

 男が荷台の冬祐と翠を促す。

「おい、下りろ」

 冬祐としては下りる以外に選択肢はない。

 翠と一緒に荷台から飛び降りる。

 目の前には遠目で見る以上に強固そうな鉄壁が続いており、その向こうからざわめきが漏れ聞こえる。

 一瞬、昨夜の解体工場がデジャヴした冬祐だったが、声のトーンが違うことに気付く。

 それはライブの開演前に盛り上がる、オーディエンスからの“歓声”にも聞こえた。

「いいぞ、下ろせ」

 若い女の声に、顔を向ける。

 トラックに後続していたトレーラーの荷台が、ツインテールの女の合図で軋みながら開く。

 そこに積まれているものに冬祐は、再度、解体工場を思い出す。

 積まれているもの――それは、百体近いアンドロイドたちだった。

 荷台の中から不安そうに周囲を見渡しているアンドロイドたちに、さっきの“ツインテール”が「とっとと下りろ、不燃ゴミがっ」と怒鳴り散らす。

 そこへ、不満げな男の声がかかる。

「おいおい、こいつ人間じゃねえか。こんなカネにならねえもの、なんで引っ張ってきたんだ」

 いつのまにか鉄壁の前に数人の男女が立っていた。

 特に目を惹くのは、中央に立っているゴスロリルックの若い女。

 腰まであるウェーブロングの髪と、背負ったライフル銃が異様な雰囲気を醸し出している。

 その隣から、Tシャツにデニムベストのデブが冬祐を見ていた。

 不快そうなその表情から“カネにならねえ人間”というのは、この“デブ”が冬祐のことを言ったらしいことがわかる。

 そんな“デブ”へ“ゴスロリ”が口を開く。

「私が連れてこいって言ったんだ。文句あるのか?」

 “デブ”のふてくされたような表情が一転して、引きつった笑いに変わった。

「い、いや、誰も文句とか言ってねえし」

 タブレット少女が、ぼそりとつぶやく。

「……文句じゃねえか」

 “デブ”は舌打ちすると、トレーラーの脇で身を寄せ合って戸惑っているアンドロイドたちのもとへと向かい、声を掛ける。

「もし、オーナーからカードを預かっているやつがいたら、ここで出せ。隠すなよ」

 そのアンドロイドたちの中から、悲鳴にも似た声が上がった。

「ホワイト団だっ」

 叫んだアンドロイドが、林道へと走り出す。

 が、すぐに放たれた電撃を受けて、煙を噴きながら倒れる。

 “ゴスロリ”が、ふんと鼻で笑いながら放ったばかりのライフル型電撃銃を下ろす。

 一瞬の出来事だった。

「え? え?」

 “ゴスロリ”と倒れたアンドロイドに視線を行き来させる冬祐の前で、グローブ型電撃発生器の男が倒れたアンドロイドを蹴飛ばして苦笑を浮かべる。

「ごりんじゅー」

 そして、声を張り上げる。

「ぼさっと突っ立ってんじゃねえぞ、不燃ゴミども。ゲートに入れ。お客様方がお待ちかねだ」

 その声を合図に、電撃銃を構えた数人の男女が集まってくる。

 そして、アンドロイド群を鉄壁の一画に開いたゲートの方へと追い立てる。

 冬祐の脳裏に駅前で見た掲示板がよぎる。

 ホワイト団とはアンドロイド専門の窃盗グループ。

 ということは、追い立てられているアンドロイドたちは盗まれてきたものなのか。

 そんなことをぼんやりと思う冬祐だが、すぐにそんな暢気な状態ではないと気付く。

 アンドロイドを追い立てていたひとりが――

「オマエもこっちだ」

 ――戸惑い、立ち尽くしている翠の髪を引っ張っている。

「いや、ちょっと」

 慌てて割って入ろうとする冬祐の腕を、反対方向から別の若者が掴む。

「人間はこっちだ」

 その時、冬祐のポケットからヒメが飛び出した。

 ヒメは翠の襟元に身を潜り込ませると、冬祐に“こっちは任せろ”と親指を立てて見せる。

 任せるしかない冬祐は黙って頷く。


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