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イントロダクション 冬祐十二歳、由胡十歳
「冬祐も早く」
垂水冬祐の前ですべてを脱ぎ捨てた芦川由胡が、固い笑みで促す。
しかし、冬祐はその言葉に従うことができず、無言で背を向けて部屋を飛び出す。
そして、そのまま自分の家まで全速力で走った。
いや、逃げた。
こうして、冬祐にとって小学時代最後の夏休みが終わった。
そして、二学期になった。
学校にも通学路にも、由胡の姿はなかった。
母の話では、家庭の事情で遠くの施設に引き取られていったというが、詳しい事情はこどもの冬祐にはわからないし、わかろうとも思わなかった。
冬祐は、最後の日に見た由胡の硬い表情と裸身、そして、そこから逃げ出した自分自身に罪悪感を覚えていた。
それゆえに、一刻も早く由胡のことを忘れたかったのだ。




