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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

犯罪者になるということ

作者: ろうろい
掲載日:2025/12/28

*この作品は実際の事件や人物などとは一切関係がありません。完全なるフィクションです。





今日の売り上げ金額:8,023円

合計売上金額:423,590円


「今日も売れたか?」画面を舐め回すように見ていた男に中年ほどの男性が声をかける。

「まあぼちぼちってとこかな。」


「おいいくらぐらいかは言えよ」先ほどの男性が笑い交じりに聞く。

「ま、おれはこれから彼女といい夜過ごしてくるから勝手に画面でも読んでろよ非リアが」

もう一人の男性が声を荒げる。少し毒舌のようだ。中年男性よりはまあまあ若い年齢と見え、顔だちもよく整っている。


そう言い残してそそくさと部屋を出た男性を見送りながらそっと画面に目をやる。

「何がぼちぼちだ。1万も稼げてねえじゃねえか。」

苦し紛れに男性の高そうな椅子に唾を吐き、中年男性もそのアジトから去る。

12/19日。クリスマスまでもう少し。だかその日を楽しみにしているのは子供と、少数派の勝ち組の大人だけ。

「俺も彼女を早めに作っとくべきだったな」

腹の肉を揺らしながら中年男性はクリスマスセールのスーパーへ吸い込まれてゆく。


***********************************************


「おーい、いるぅ?」

という声を出しながらとある住宅のチャイムを鳴らす男性が一人。先ほどの若い男だ。

彼の名前は西川 昇。彼の育ちは比較的裕福だったが、裕福さに甘えた彼がゲームの課金やらゲームセンターだか宝くじだかに大金をつぎ込んでしまい、親もそれを見ているうちに金銭感覚がバグり仕事もやめ、結局は妻の浮気が見つかり家庭崩壊をした。


そんなことがあり、彼は今児童ポルノ動画の販売をしている。要は犯罪者だ。犯罪者。

そんな彼が某出会い系アプリで見つけた女性と最近リアルで会い。今日は初めて家に呼ばれた次第である。

ドアが開き、中に招き入れられる。その整った顔立ちもあり、幼い時から女子の家に行くことは何回かあったが、それとこれでは話が違う。

彼女の発言によると今は一人暮らしをしているらしい。つまりあんなことやこんなことが彼女の親に発見される可能性は極めて低い。


ただ彼はそこまで貪欲なわけではなかった。しっかりと彼女を愛していた。彼女もまた、彼を愛していた。と彼は解釈している。

彼女が申し訳なさそうに口を開く。「ごめん...今日なんかお母さんとお父さんが来るらしくて...ただ渡したいものがあるだけらしいけど...嫌だよね。」

嫌ではない。けれど、満足かといわれるとそうではない。そこで彼はかなり踏み込んだ提案をすることにした。「俺ん家、来る?」

夜空には暑い雲がかかっていた。


***********************************************


「何か食べる?」と俺は言った。僕は西川昇。今は彼女と自分の家にあったUMOで遊んでいる。

「私はいいよ。そうだ、昇ってゲームいっぱい持ってるんでしょ?それやろうよ。」

最初は格闘ゲームをやった。彼女は大の付くゲーム好きらしく、頑張って練習している俺とはだいぶ互角の試合が続いたが結局は泥仕合の末俺が勝利した。彼女はめいいっぱい頬を膨らませ、

「もう一戦!」とじたばたしている。幸せな空気がそこには流れていた。

いつの間にか人間とは何か大事なことを忘れてしまう人間だ。

それは俺も例外ではなかった。

勝手にこの今日という日が、明日という日が、この先の未来が保証されていると勘違いしていた。おそらくこれからも勘違いしながら生きるのだ。

チャイムが鳴った。格闘ゲームの最中突然の出来事だったこともあり、心臓が飛び出るかと思ったが実際はそんなことはなかった。「出てくるね」と彼女に一言いい、玄関に向かう。

—―――ああ、今思えばあの一言が

彼女と最後に交わしたぬくもりのある声の会話だったのか。「○○県警です。お話を伺いたいのですが、少しよろしいでしょうか。」無感情に玄関先の警察官が言葉を会話ではなく、「決定事項の伝達」

のように発してきた。焦った。そうだ。自分は犯罪者なのだ。やってはいけないという自覚はあった。

しかしそれが貴重な収入源なのだ。一度始めてしまったらもうやめられない。

誰しも楽して稼ぎたいのだ。

「あのー。西川昇さん?であってますよね。」

全身に鳥肌が立った。

やめてくれ。それ以上言うな。どっかに行け。頼む。そんな願いもむなしく警察官は淡々と続ける。

「あなたに児童ポルノ禁止法違反の容疑がかかり、逮捕状が出ています。署まで同行願います。」

「待ってくれ!俺じゃない!俺じゃない!もう一人!もう一人いるんだ!そいつだ!情報をやる!だからはなせ!」抵抗もむなしく手錠をかけられた。黒い手錠だった。銀色だとこれまで思っていた自分が急に恥ずかしく思えてきた。

地獄はこれからだった。そして彼女が騒ぎを聞きつけてやってきた。「やめろ!来るな!部屋に戻れ!」必死に叫んだが、彼女には届かなかった。

事情聴衆のため、彼女もパトカーに乗せられ交番にたどり着いた。俺はこれから交番ではなく署まで送られるらしいが、どうしても最後に彼女に一言いいたかった俺は警察官に

「彼女は事件に一切関与していない。あと彼女に一言言わせてくれ。そのあとはどうなってもいい。」

どうなってもいいわけではなかった。ただ、彼女には迷惑をかけたくなかった。もう、人に迷惑をかけたくないのだ。

まあ、しょせん犯罪者の綺麗事だ。もちろん警察官からの許可は下りなかった。そのあと本署に

パトカーで送られ、ひとりだけ先住の犯罪者がいる牢屋へと入れられた。先住の犯罪者。ガタイがよく、

全身に墨を入れている。怖かった。

看守に頼み込んで、彼女に監視付きでメールを送ることが許可された。

俺はもう誰にも迷惑をかけたくないと思った。彼女を本気で愛していた。今も愛している。

だから、彼女とは別れよう、もう会うのをやめよう、そう決意した。

「さようなら。今までありがとう。」とんだ泣き言だと自分でも思った。けれど、もうどうでもよかった。

自暴自棄っていうやつだったのかもしれない。泣き疲れ、その日は早く寝た。牢屋の中は暑かったため、床に寝た。コンクリートの冷え具合がちょうどいい。


あそこにいるのは...俺の彼女?なぜここに...格闘ゲームを一緒にやった。UMOをやった。ポキカでバトルもした。一緒に映画も見た。突如、

彼女の顔が破裂した。


「ぃ....ぉ...おぃ、おい、新人。聞こえっか?」

目を覚ますとそこには鉄格子とこわもての先住犯罪者。

また泣いてしまった。涙が枯渇することはないんだなと思った。

「おい、泣くな新人。朝飯だぞ。とってきてやった。」

「え...ありがとう..ございます...」

しおれた喉を震わせてやっと出た久しぶりの嗚咽以外の言葉だった。

こわもての先住犯罪者、彼が差し出してきた弁当は冷え切っていたが、とても暖かかった。

「おめぇ、前科ねえだろ。初犯なら執行猶予がある。安心しろ。」

そう言ってくれた彼は詐欺・暴行前科2犯で懲役が確定したらしい。

翌日。一斉に容疑者が外に出された。外といってもまだ檻の中。犯罪者が適度に体を動かす場だ。

俺はといえばなかなか他人となじめていなかったので奥の方位にいた。そして、ひょろひょろとした警察官と出会った。彼は自他ともに認める極度のオタクだそうで、また今度発売される格闘ゲームの続編を予約しているらしい。そんなものが出るのか。知らなかった。

彼とは日々を過ごすうちに仲良くなった。彼の尊敬している老警部補に合わせてもらい、一緒に話をした。

(ここを出たらもう彼らとは会う機会がなくなるんだろうな...。)

思ってはいけないのだろうけれども、少し警察署が恋しく思えてしまった。

そしてとある日、思い切って老警部補に聞いてみた。

「あの...彼女からの返信ってきてますか...お願いです。来てないなら別にそれでもいいんです。お願いします...!」

この人生で頭など下げたことがあっただろうか。おそらく今日が初めてだろう。頭に血が上る感触が気持ち悪かった。

老警部補は優しい顔をしていたが、あくまでも警官だ。

「駄目だ。」

意外と冷静だった。彼はともかく、俺も。

涙は出なかった。ひょっとしたら、捕まった時に使い切ったのかもしれない。

「はい..わかりました。さようなら。」

その日は寝れなかった。

「おい、囚人番号329。出てこい。」

「あれ...?なんかきょう早くないか?」

起床時間の一時間前だ。何かがおかしい。

「私語を慎め!」

よく声の発生源を確かめると、あの老警部補だった。

近づくと耳を貸せとジェスチャーされ、みみもとで衝撃的なことをささやかれた。

「ほら、彼女さんからのメールだ。誰にも言うなよ。」

そういって一つの紙切れを渡してきた。一文字一文字が手書きだ。老警部補の目にはクマができている。久しぶりに涙が出た。涙で目がよく見えなかったが、人部分ははっきりと見えた。


「はよ帰ってこい。アホ。」


俺はなんてことをしてしまったのだろう。幸せを、金欲しさに自ら崩壊させてしまった。

なぜ律儀に働かなかったのだろうか。

なぜ自分の家に誘ったのか。彼女の家でよかったじゃないか。

今更欲の恐ろしさに気づいた。

早く帰りたい...


激しい嗚咽とともに罪悪感からひどい吐き気がしてきた。

冷たい牢獄の中、乾いた地面に気づけば倒れていた。

その日の朝、老警部補の隣に並んだ署長が檻の前にきてささやいた。

「3か月の執行猶予だ。でろ。」

外の空気を感じた。急に不安感に襲われた。

俺はこんなに駄目な人間なんだ。一人で生きていけるはずが...

没収されていたスマホを出し彼女に電話をかける。出てはくれなかった。

けれど、いいんだ。自分の家に帰ったとたん彼女の家の合いかぎを持ち彼女の家に向かう。

一応ドアのノックはしたからいいと思って彼女の名前を叫びながら涙目で家に入った。


男物の革靴が、玄関にはあった。

「え...父親でも来たのか...?」

最悪の事態を想定せずにリビングに言った瞬間、神がいないことを悟った。

シャワーを誰かが浴びている。

いや、


誰か(おんな)誰か(おとこ)が2人で浴びていた。影が見えた。念のため彼女の名前を呼ぶ。


風呂場からタオルを巻いた、見覚えのある顔が二つ出てきた。

2つとも見覚えのある顔だ。


彼女と...かつて仕事を共にし、ともに逃げ、冗談を言い合った中年の男。

気が付けば外に出ていた。別に逃げる必要はないのだろうけど、何かkら逃げようと脳が必死に働いた。

今ならわかる。

俺が逃げたかった相手は、現実だ。それも世界最悪の。

踏切に出くわした。頭に響く久しぶりの警笛音。

そっと目を閉じる。

なんで反省した俺が。これからの人生を正しく生きよう意図していた俺が。


いや、


もう


どうでもいいんだ。


電車が迫る音がする。


俺をこんなのにした現実が憎い。

         彼女が憎い。

       仕事仲間が憎い。

          俺が憎い。


        すべてが憎い。

最後に何か食べたかったな...そんな思いは俺の腕と、脚と、指と、肩とともに粉砕された。


気づけば病院のベッド。

老警部補と若い景観が見守っている。体の自由が利かない。

生きていたんだ。あの時はとても逃げたかったのに。いや本当はもっと生きたかったんだと思う。

自然と涙があふれる。2人の警官からも涙が...あれ。


2人の涙が...赤い...?


***********************************************


「今朝のニュースです。幼い少女を悪用しわいせつな動画を撮り、ネットなどに投稿したことで捕まり

執行猶予を受けていた西川 昇(37)が電車の踏切に突然飛び込む事故がありました。西川昇さんは

救急搬送されましたが搬送先の病院で息を引き取りました。電車の乗客にけが人はいないということです。

次のニュースです。.........」


高校の制服に身を包んだ少女がつぶやく。



「やだわー。そんなきもいおっさん死んで当然だわ」

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