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第11話

春の大獣祭から二日後。

村はいつもの穏やかな空気に包まれていた――はずだった。


だが、昼前。

森の奥から、普段は聞こえない低い唸り声が風に乗って届いた。


「……何だ、今の音は?」

村人たちがざわつきはじめる。


耳の良い獣人族たちが、次々と不安げに森の方を見つめた。


「村長! 森の魔獣たちが落ち着いていません!」

「狩猟道の方で、木々が不自然に揺れています!」


報告は次々と寄せられ、村長の顔が険しくなる。


「こんな時期に……森の主か、その近くの魔獣が動いたのかもしれん……」


村に広がる緊張。

小さな子どもは泣き、母たちは家畜を小屋に押し込んで慌てて戸を閉める。


このままでは混乱が広がる――


その時、カインがゆっくりと前に出た。


「村長。状況が確定するまでの間、村の防備を固めましょう。魔獣が何であれ、備えるのは大事です」


その声は落ち着いていて、揺るぎがなかった。

集まっていた村人たちの視線が、一斉にカインへと向く。


村長は頷いた。

「……頼めるか?」


「俺にできる限りのことはする。」


カインはすぐに村人たちへ指示を出した。


「まずは村の外周の柵を強化してくれ。

 壊れたところや弱い箇所を優先だ。

 太い木材は俺が森から運ぶ」


獣人族の青年たちが、我先にと走り出す。


サリナも腕まくりしながらニヤッと笑った。

「ふふ、指示が的確ね。あんた、こういうの慣れてるの?」


「……まあ、多少な」

カインは苦笑しながら答えた。


リィナはその横顔を見て、胸がチクリとした。


(カイン……今まで、どんな場所で戦ってきたの?

 こんなに自然に、人を導けるなんて……)


胸の奥で、言葉にならない感情が揺れた。



カインは古い見張り台を指し、獣人たちに声をかける。


「森の見通しが悪い場所に、新しく見張り台を作るぞ。

 木材は俺が斧で切ってくる。縄と釘を準備してほしい」


「任せてください!」


獣人族の若者たちが駆け出すと、カインも森へ入り、木を選び、手際よく斧を振るった。


リィナはその姿を黙って見つめた。


――鋭く、迷いのない一撃。

その動きには、獣人族の戦士にも引けを取らない迫力があった。


(やっぱり……ただの騎士じゃ、なかったのでは?)


そんな疑問が湧くほどに、カインの動きは洗練されていた。



村長と年長者たちは倉庫を開き、カインの指示どおり備蓄を確認した。


「肉は燻製にした分がまだある。干し肉も十分だ」


「穀物は……この前カインが畑に植えたぶんが育つまでは不安だが……」


カインはうなずきつつ言った。


「当日の避難食は、今の分でなんとかなる。

 俺の方でも狩りに出て、すぐに食べられる肉を確保しておこう」


「助かるわ本当に……」

サリナが息をつき、肩に手を置く。


「でも無茶はしないでよ? あんた村の戦力なんだから」


「肝に銘じておくよ」


「次に、老人と子供を守る場所がいる。

 村の中心にある広場の倉庫を転用しよう」


カインはそう言って指揮し、倉庫の掃除、寝床の準備、最低限の水と薪の配置を指示した。


母親たちは涙ぐみながら、カインへ感謝の言葉を述べた。


「ありがとう……人族なのに、うちの村のためにここまで……」


「俺がこの村の領主だ。守る責任がある」

カインは真っ直ぐ答えた。


その言葉を聞いたリィナの胸は熱くなり、思わず呟いてしまう。


「……カインって、本当に……すごい」


サリナが横から肘でつつく。

「リィナ、顔赤いわよ?」


「えっ……!? あ、あの……!」


リィナの耳と尻尾が真っ赤になり、慌てて両手で隠す。


カインは少し困ったように微笑むだけだったが、

その優しい表情がリィナに余計に火をつけるのだった。


準備が整い、夕方――

村人たちが集まる中央の広場。

村長が声を張り上げた。


「森の魔獣の動きが不穏だが……カインのおかげで備えはできた!

 皆、落ち着いて過ごすのだ!」


村人たちの表情には、不安の中にも確かな安堵が浮かんでいた。


カインは腕を組んで広場を見渡し、胸に静かな決意を宿す。


(この村を……守る)


その背中に、リィナがそっと近づき、囁いた。


「カイン……ありがとう。本当に助けられてばかりで……」


「大丈夫だ。俺はここにいる。何が来ても、守るさ」


その言葉に、リィナは胸の奥が温かくなるのを感じた。


――こうして村は、一時的な混乱を乗り越え、

不穏な兆しに備える体制を整えたのだった。

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