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第10話

翌朝。

祭りの喧騒がまだ村に残る中、カインはリィナに連れられて自分の家へ戻っていた。


「カインさん、今日は狩猟行列の日ですから……その、衣装を着てもらわないと」


「衣装? 俺が?」


「はい。最終日は、村の“仲間”として式典に参加する方だけが着るんです」


そう言うリィナの表情は誇らしく、どこか嬉しそうだった。

家に入ると、机の上には白と灰色の毛皮を縫い合わせたベストと、森の緑を意識した装飾布。

胸元には小さな骨飾りがついている。


「これ……獣人族の?」


「はい。新しい仲間に贈る“初春の装束”なんです」


リィナは丁寧に衣装を手に取ると、カインの前に立った。


「着せますね。ちょ、ちょっと失礼します……」


カインは腕を上げ、されるがまま衣装を羽織る。

リィナの指先が胸元の紐を結ぶたび、わずかに震えた。


「似合っています……! 本当に……」


「そうか? なんだか照れるな」


その瞬間、背後から声が飛んできた。


「ふーん……なぁに? 朝っぱらから仲良く着せ替え?」


振り向くと、サリナが獣耳を揺らしながら立っていた。

腕を組み、じろりとカインを見つめ、にやりと笑う。


「まあ、悪くないじゃない。ちょっとだけ様になってるわよ、カイン。」


「……それはどうも」


「姉さま、意地悪言わないでください!」


リィナが頬を膨らませると、サリナは笑いながら二人の間に割り込んだ。


「とにかく行くわよ。行列はもうすぐ始まるから」


村の広場には、30人ほどの獣人族が集まっていた。

太鼓の音がゆったりと鳴り響き、参加者たちは肩に槍や弓、飾り布を持って整列している。


子どもたちも走り回りながらカインを見上げる。


「カイン! 昨日の舞かっこよかったよ!」


「お兄ちゃん、その剣も持ってくの?」


わいわいと囲まれ、カインは少し苦笑した。


「今日は使わないさ。平和な儀式なんだろ?」


リィナが胸を張る。


「はい! 狩りと言っても、森で“春獣”と呼ばれる温厚な魔獣を迎えに行くだけなんです」


春獣とは、木の実を食べるだけの小さな魔獣。

行列の象徴として連れて帰ることで、豊穣と安寧を祈る──そんな伝統らしい。


村長が杖をつきながら前に立ち、声を張る。


「皆の者! 今年も無事に春の大獣祭を迎えられたこと、心より感謝する。

今日は村の新たな仲間──カインも共に歩む。歓迎の気持ちを忘れぬようにな!」


「おぉーっ!」


歓声が上がる。

カインは思わず背筋を伸ばし、軽く礼をした。


森の中は陽光が差し込み、鳥の声が響く。

行列はゆっくりと進み、歌のような声をあげながら森の奥へ。


「カインさん、緊張してませんか?」


「まあ……少しだけな。こういう行事は慣れなくて」


リィナはくすっと笑い、隣を歩く。


「大丈夫です。皆、歓迎していますから」


その時だった。


茂みの奥で、ガサガサッと音がした。


子どもたちの耳がぴくりと動く。


「なに?」「魔獣?」


次の瞬間――小型の魔獣が飛び出した。

ウサギのような形だが、背中に小さな甲殻を持つ “森跳獣”。


驚いた子どもたちが後ずさる。


「わっ!」「こわい!」


跳獣は威嚇するように鳴き声をあげ、こちらへ向かってくる。


カインは反射的に前へ出た。


「大丈夫、下がれ!」


剣は使わず、しゃがみ込みながら左手で素早く石を拾う。

手首のスナップだけで地面にコツンと投げると、跳獣の前に小さな音が響いた。


魔獣は驚いて方向転換し、すぐに森の奥へ逃げていく。


「わぁ……!」


子どもたちから感嘆の声が上がった。


「お兄ちゃんすごい!」


「石だけで追い返した!」


リィナは目を丸くし、サリナは腕を組んだまま鼻を鳴らす。


「ふん……。悪くないじゃない、反応は。うちの若い衆より早いくらいだわ」


「褒めてんのか、それ」


「褒めてあげてもいいわよ? ちょっとだけね」


サリナが尻尾を揺らし、いたずらっぽく笑う。


森の奥に進むと、目的の「春獣」が木の根元で草を食べていた。

丸い体、ふわふわの毛。獣人の子どもたちは歓声を上げる。


「いたー!」


「かわいい!」


リィナはカインに小声で言う。


「この子を村へ連れて帰り、祭りの締めくくりにするんです。

力はほとんどなくて、とてもおとなしい魔獣ですよ」


カインは頷く。


「ほう……確かに温厚そうだな」


リィナは春獣の頭を優しく撫でる。

すると春獣は嬉しそうに鼻を鳴らした。


「今年はカインさんにも、一緒に連れて歩いてほしいって村長が言ってました」


「俺も?」


「はい! 新しい仲間としての証ですから!」


リィナが差し出した革紐を受け取り、カインは春獣へと結びつけた。

春獣はまったく警戒せず、むしろカインの手に頭を寄せてくる。


「こいつ……懐っこいな」


「カインさんの匂い、安心するのかもしれません」


リィナがほほえむと、サリナが割って入った。


「なーに照れてんのよ二人とも。ほら、戻るわよ。行列の主役が揃ったんだから!」


森を出ると、村の入口には大勢の村人が待っていた。


太鼓が鳴り、歌声が広がる。


「戻ったぞー!」


「春獣だ! 今年も無事だな!」


春獣を引くカインに、子どもも大人も笑顔で声をかける。


「おーいカイン! 立派なもんだ!」


「いい働きだったな!」


「似合うぞ、その衣装!」


カインは少し照れながらも、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


(……悪くないな。こういうのも)


隣でリィナが嬉しそうに微笑む。


「カインさん、ようこそ。本当に……この村の仲間です」


サリナも腕を組んで満足げに言う。


「まあ……認めてあげてもいいわ、カイン。

あんた、もう立派な“村の一員”よ」


カインはふっと笑った。


「そう言ってもらえると嬉しいな」


春獣が鼻を鳴らし、子どもたちが歓声を上げる。

太鼓の音が再び強まり、村中に笑い声が満ちた。


こうして、春の大獣祭は平和に幕を閉じた。

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