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彼女が仕掛ければ飛ぶように売れる  作者: 坂本光陽


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8/10

試行錯誤とヘルシー


 ケチャップである。母はお好み焼き用に、マヨネーズとケチャップを組み合わせたのだ。ケチャップならマヨネーズよりも、簡単につくることができる。


 温暖な気候のおかげで異世界の農業は盛んだし、近所の農家の手掛ける野菜は多種多彩だ。いろいろな野菜をつくっているし、一年を通してキャベツやタマネギはもちろん、トマトも収穫している。


 トマトに香辛料を加えれば、ケチャップを作ることができる。少なくとも、ソースを作るよりは簡単だ。より高度な組み合わせを目指すなら、手作りマヨネーズと相性の良い手作りケチャップを発明すればいい。


 いや、いっそのこと、マヨネーズとケチャップの風味を兼ね備えたものを開発すればいいのか。それを〈マヨップ〉と命名しよう。お好み焼きにぴったりのマヨップを作り出すのである。


 カホの農家巡りが始まった。マヨップの研究開発に、トマトは不可欠である。より加工しやすいものを選びたかった。また、お好み焼きに使うキャベツやタマネギは、熱すると甘みを出してくれるので大変ありがたい。どこの農家のそれがよいか、慎重に吟味した。


 ブレスレットの成功で自信をつけたこともあり、カホは積極的に農家との交渉を行った。ブレスレットの生産量が減ったので、手のすいた子供を連れてショウは農家の手伝いを再開した。労働力と野菜を相殺しようとする作戦である。それ以外にも、野菜を継続的に購入することを約束して、格安で仕入れられるようにした。


 実は、異世界には生野菜を食べる習慣はない。大量の野菜を持ち帰ることができたので、カホは野菜サラダをつくり、父の健康のためにダイエット法を伝授することにした。


「ベジルルバスト? 何なんだ、それは」

「ベジタブル・ファースト。食事の最初に、野菜を食べるだけでいいの。子供にもできるし、本当に簡単でしょ。騙されたと思って、やってみようよ」

「いやいや、父さん、騙されるのは嫌だなぁ」と、苦笑を浮かべたものの、「でも、カホがそこまで言うなら、やってみようかな」

「うん、父さんには長生きしてもらわないとね」


 ベジタブル・ファーストとは、メインの料理の前に、まず野菜をとる食べ方である。ファッションモデルが実践していて、体型と健康を保つことのできるダイエット法だ。食べる順番を変えるだけで、食べる量を減らす必要はない。手軽に行えるし、効果も絶大である。


 父に長生きをしてもらうためには、まず体重を減らすことが必要だ。体重を減らせば腰の負担が軽くなる。腰痛の再発を防ぐこともできる。そのためには、ベジタブル・ファーストが最適だし、健康的に痩せることが望ましい。


 蛇足になるが、異世界の人が現世の人より短命なのは、バランスを欠いた塩辛い食事にあるのではないか。だからこそ、自分が手掛ける食べ物は、ただ美味しいだけでなく、ヘルシーでもありたい。カホは、そう考えていた。


 ただし、豊かな香りと豊かな旨味に関しては、いまだ解決を見ていない。この課題はマヨップでクリアできないだろうか? 例えば、トマトの酸味と甘みを最大限に生かせば、新鮮な味わいを出せるのではないか。


 カホはキッチンにこもって、試行錯誤を繰り返した。子供たちに「べちゃべちゃ」と言われたので、お好み焼きは薄めでカリカリ気味に焼いてみた。マヨップを塗って、一口食べてみる。これまでにない食感と味わいだった。お好み焼きというより、ピザに近いかもしれない。


 そうだ。ピザに近いなら、チーズを加えてみてはどうだろう。濃厚な味わいは、異世界の消費者ニーズにマッチするにちがいない。異世界では酪農も盛んなので、チーズは庶民の間にも出回っている。そういえば、細切れにしたチーズを、お好み焼きに入れることもあったはずだ。


 父とショウ、子供たちの反応を見ていると、何かが根本的に足りないと思っていた。異世界の人々の舌を魅了するために、豊かな香りと豊かな旨味を醸し出す食材を探し求めていたのだ。それが、ようやく見つかった想いだった。


 早速、近所の酪農家を回って、いくつかの種類のチーズを入手した。求めているものは、濃厚な味わい。他の食材と馴染みやすいように、熱を加えると柔らかくなること。庶民の食べ物を目指しているため、安価であることも不可欠である。

 

 ここにきて、目指す方向性が見えてきた。お好み焼きとピザの中間である。異世界の食材と一般庶民のニーズを考慮すると、そのあたりが狙いどころだろう。異世界の食材を元に考えて、マヨップの相性を高めるように努めた。


 方向性は間違っていないはず。試作品を作り上げるとショウや子供たちに食べてもらい、彼らの意見を取り入れて、さらに完成度を高めていった。幸い、ブレスレットの蓄えがなくなる前に、どうにか満足のいくものができた。


 新しいビジネスを考え始めてから二カ月が経過していたが、カホには手ごたえがあった。アニーの宿屋で試食会を開かせてもらった。アニーや宿泊客たちに食べてもらい、感想や意見を聞いた。反応は概ね好意的だったし、酒のつまみになることがわかったのは、大きな収穫だった。


 その意見に訴えたのは、アニーたちだけではない。

「この食べ物はワインとの相性はばっちりだな。こいつが間違いなく売れると思う。父さんが太鼓判を押すよ」と、カホの父も賛同した。


「姉ちゃん、商品名はどうするんだ? ブレスレットと同じように〈願いの叶う食べ物〉かい?」と、ショウに訊かれた。

「ううん、そうじゃない。この食品を口にした人には、みんな笑顔になってほしい。ハッピーになってほしいの」カホは満面の笑顔を浮かべて、「だから、これは〈ハッピー焼き〉よ」




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