一石二鳥
偽物を手掛けていた連中と聞けば、つい目つきの悪い犯罪者を思い浮かべてしまう。ほとんど人は詐欺師やヤクザのような男性を想像するかもしれない。カホも先入観から、そのように思い込んでいた。
だが、「事実は小説より奇なり」という。偽ブレスレットを実際に作っていたのは、8歳から12歳までの六人の子供たちだったのだ。偽物を手掛けた詐欺師は、ただ同然の労働力を使うことで、荒稼ぎを目論んだのだろう。
子供たちによると、目つきの悪い男に仕事を斡旋されたらしい。少なくても一人は、目つきの悪い男がいたわけである。その点だけは、カホの想像は当たっていた。その男は子供たちを古びた小屋に押し込め、不衛生な環境の中で、昼夜を問わずブレスレット作りを命じていたらしい。
賃金は一切支払わず、ただ粗末なごはんを与えるだけ。その上、手が後ろに回りそうだと知るや、子供たちを放り出して、さっさと逃げてしまった。後に残されたのは、途方に暮れた子供たちと、行き場の失った偽ブレスレットの山である。
「年端のいかない子供を食い物にするなんて、許せない男だね。絶対に捕まえて尻をひっぱたいてやる」
そんな風にアニーは息巻いていたが、カホはそれよりも、子供たちが不憫でならなかった。男の子が三人、女の子が二人。両親が亡くなったり捨てられたりして、身寄りのない者ばかりだったからだ。
「よかったら、私のところに来ない? 幸い、ブレスレット造りの人手を集めようと思っていたの。新しい作業小屋をつくっているところだし、みんなが来てくれると、私も助かるのよ」
カホは行き場をなくした子供たちに、暮らしの面倒を見ることを申し出た。子供たちの誰かのお腹が鳴ったので、
「もちろん、おいしい食事と快適な寝床もつけるわよ。一生懸命に働いてくれたらキチンと賃金を支払うし、仲良くやっていけそうなら、私の仕事を手伝ってほしいの」
つまり、本物のブレスレット造りを手伝えば生活の心配はいらないし、労働条件に関しては偽物づくりよりも格段にアップするのだ。子供たちに断る理由などなかった。
カホの考えには、父とショウも賛同してくれた。それからの展開はスピーディーだった。父の知り合いの大工に頼んで、宿屋の中庭に新たな小屋を作ってもらい、そこを子供たちの寝床と作業場を兼ねたものにしたのだ。
父はコルセットのおかげで、無理をしなければ働けるようになった。そこでショウと一緒に、子供たちの指導をしてもらった。父は元々、子供が大好きだったこともあり、嬉々《きき》として子供たちも面倒を見てくれた。
ブレスレット作りに関して、子供たちは呑み込みが早かった。すぐに出来の良い本物をつくることができたので、おそらく手先が器用な子供たちがそろっていたのだろう。質の高いものを、しっかり作ってくれたのだ。
美味しいものが食べられるし、生活が保障されているので、子供たちの不安は一掃された。頑張れば頑張るほどカホに褒められるので、やりがいもあったのだろう。毎日、元気に作業に取り組み、一人残らず笑顔を見せるようになっていた。
カホは子供たちの特徴と実力を見極めて、役割分担も行った。木の蔓を集めるのが得意な子もいれば、蔓の皮をむくなど加工の上手な子もいる。色彩感覚の優れた子には、ブレスレットのデザインをまかせることもあった。
子供たちとの暮らしは本当に楽しかった。一緒に食事をとるときは賑やかだし、子供たちの成長の速さには目を見張るものがある。ただ眺めているだけで、カホは幸せな気分になれたものだ。年齢的にはそんなに違わないのだが、母親のような目線になっていることもある。この感情は母性愛なのかもしれなかった。
ブレスレットの製造効率は飛躍的に高まった。ブームによってニーズは急激に高まっていたが、品切れを起こさなかったのは、新戦力の子供たちのおかげである。カホが子供たちに救いの手を差し伸べたことは、結果的に大きなプラスに働いたのだ。
一石二鳥どころか、三鳥、四鳥を手に入れることになった。カホたちの笑顔は絶えず、毎日、ブレスレットの製造を行った。おかげで、ブレスレットの売り上げは十数倍まで跳ね上がった。一カ月の売り上げが、道具屋三年分のそれに匹敵した。
思えば、そこがピークだったのだろう。どのような商品でも成長期・安定期を終えると、衰退期を迎える。発売から一年ほど経過すると、ゆったりと売り上げは下がり始めた。
端的に言えば、〈願いが叶うブレスレット〉ブームが終焉を迎えたということだろう。寂しさがないといえば嘘になるが、一回の成功やビギナーズラックに執着するつもりはない。
カホはあらかじめ、こうした状況を予期していた。一つのブームがいつまでも続くとは思えないからだ。現世のブームと比べても、よくもった方だろう。アニーの宿屋では相変わらず、ブレスレットは売れ続けていたが、それに甘んじてはいられない。
時が来た、ということなのだろう。カホにとっては、新たなビジネスを仕掛ける頃合いだった。子供たちという扶養家族が増えているので、新たなビジネスは速やかに展開させる必要がある。




