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彼女が仕掛ければ飛ぶように売れる  作者: 坂本光陽


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5/10

偽ブレスレット


 ブレスレット完売を祝って、カホとショウは父とともに、ささやかなパーティを催した。初めて見る御馳走とワインを前にして、父は大粒の涙をこぼした。もちろん、うれし泣きである。


「母さんが生きていたら、どんなに喜んだことか。わしは心の底から、おまえたちを誇りに思うよ」

 さらに父を感激させたのは、カホたちからの贈り物だった。細長い平板・24枚と動物のなめし皮を主材料としたアイテム。それは、腰痛対策にぴったりのコルセットだった。カホが設計図を書き、ショウが時間をかけて作り上げたのだ。


 コルセットは腰部をしっかり固定し、痛みをやわらげてくれる。父は最初は苦しそうにしていたが、ショウが締め付け具合を調整すると、すぐに満面の笑顔になった。

「これはいいな。腰の痛みが軽くなったぞ。まるで、魔法のようだ。カホ、ショウ、本当にありがとう。わしにはもったいないほどの娘と息子だ」


 父はカホとショウを抱きしめて、大泣きをした。カホとショウも、もらい泣きをした。父からの感謝の言葉は、カホとショウが味わった艱難辛苦かんなんしんくをきれいに打ち消したからだ。


 カホは久しぶりに、心から笑うことができた。まるで母が生きていた頃のように、幸せな家族がもどってきたように思った。



 一般庶民をターゲットにした装身具は、異世界で初めての商品である。値段も500リーマ、現世に換算すれば約1000円。手ごろな価格帯なので、誰でも手が出しやすい。それ自体はカホが狙ったものだったが、それ以外にも追い風があった。


 異世界の服装は基本的に、くすみカラーが主体である。カラフルなブレスレットをファッションのワンポイントにすることが、城下町を起点にして広まったのである。とりわけ、発色の良い黄色の人気が高い。


 カホは直ちに、黄色ブレスレットの量産に取り組んだ。商機を逃す手はない。思い切って、大胆な増産体制を組むことにした。近所の人たちに声をかけ、ショウをリーダーとした三班体制を組んだのだ。


 材料の収集・木の蔓の加工・製品の色付けの三班である。ブレスレットの製造を分業で進めることで、作業効率を大幅にアップさせたのだ。


 マーケティングというものが、異世界で初めてだったせいか、カホのプランは恐ろしいほどに当たった。第二弾、第三弾と倍々ゲームのように売り上げは()()()()()()。アニーの宿屋を起点として、〈願いが叶うブレスレット〉は大ブームを巻き起こしたのである。


「姉ちゃんって、魔法使いみたいだね」そう言ったのはショウだった。

「えっ、何を言い出すのよ」

「だって、姉ちゃんの商品作りや売り方は、まるで魔法そのものじゃないか」

 なるほど、ショウのいう通りだ。異世界におけるマーケティングは魔法そのものにちがいない。


 しかし、「好事魔多こうじまおおし」という。これまでが順調に行き過ぎていたのかもしれない。カホのブレスレット・ビジネスに、不穏な影が忍び寄っていたのである。


 どうやら、異世界にもパクリというものがあるらしい。ブレスレットブームをあてこんで、偽ブレスレットが出回り始めたのだ。ショウが知り合いから入手してきたそれは、本物と同じ木の蔓を使ってはいるものの、かなり粗雑な代物だった。


 ショウは偽物をもてあそびながら、

「こんなものを平気で売りさばくなんて、恥知らずもいいところだね。俺たちや道具屋の風上にもおけないね」と、息巻いていた。


 カホは溜め息をつくと、

「ひょっとしたら偽物が出回るかもって思っていたけれど、予想よりも随分はやかったな」と、平然と言ってのけた。


「えっ、姉さんにはわかっていたの? わかっていて放置していたの? 偽物を作っている連中は、僕らの尻馬に乗って荒稼ぎをしているんだよ。悔しくないの? どうしてさ?」


 カホは小首を傾げて、

「うん、どうしてだろうね。尻馬にのるなんて、言ってみれば、私たちの商品を認めてくれたわけでしょ。悔しいというより、誇らしいといったところかなぁ」


 父も同じような意見をもっていた。

「人の作ったものを真似ることは、モノづくりの基本だよ。まるっきり真似るのは論外だが、先達の技を参考にするのは、少しも恥ずかしいことじゃない。むしろ、技術を高めるために必要なことだ」


「何だよ、それ。俺には全然、理解できないね。パクリ野郎は、俺たちの売り上げを横取りしているんだよ。やっぱり気分がよくないし、何か手を打たないと、俺たちの被害は大きくなる一方じゃないか」


 確かに、ショウの言うとおりかもしれない。

 実はアニーからも同じようなことを言われた。


「偽物を手掛けた奴は盗人だね。言わば、アイデアの泥棒だよ。お天道様てんとうさまに顔向けのできない奴には、百叩きなんかじゃ足りない。地獄に落ちてしまえばいいんだ」とまで言い切った。


「アニーさん、大げさすぎますよ」と、カホは苦笑した。「でも、偽物を作った人たちには興味があります。どうせ作るなら、もっと丁寧に手間暇をかけないと。一体どんな顔をしているのか、一度会ってみたいですね」


「それは私も同感だよ」アニーが頷いて、「そうだね。偽物づくりを手掛けた連中は、人を使ってでも、この手で捜し出してみせるよ」


 その後もカホのブレスレットは売れ続けた。偽物が粗雑だったため、かえって本物の良さが証明されたのか、一時的なブームに終わることはなかった。アニーの宿では定番商品になり、遠方から買い求めにくる客が増えたせいで、受注に生産が追い付かないほどだった。


 そんな時、偽物を手掛けた連中の正体が判明したのだ。



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