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彼女が仕掛ければ飛ぶように売れる  作者: 坂本光陽


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手作りブレスレット


 カホには何よりも大切な家族がいる。こちらでの母は病気で失ったが、父と弟は健在である。父ジャックは相撲取りのような巨漢であり、その血をひいたのか、弟ショウは大柄な筋肉体質。「気は優しくて力持ち」は、二人のためにあるような言葉である。頭の方は少し足りないのだが。


 カホ、二人のことをお願いね。大好きな母からそう頼まれたので、父と弟のことは最優先事項である。家族第一主義だと言い切っていい。二人には、いつまでも元気でいてほしい。


 父の仕事は、道具屋である。以前は農作業の道具をあつかっていたのだが、今ではスプーンからテーブルまで、頼まれれば何だって手掛けている。巨体の父が小さな道具をチマチマ作っている後ろ姿は可愛かったが、同じ姿勢をとり続けているのが、カホは気になっていた。


「父さん、時々でいいから、ストレッチをして身体をほぐしてね」

「スットレーチ? 何だ、それは?」

「ほら、こういう風にするんだよ」カホは屈伸運動をしてみせた。

「はははっ、何だ、面白い恰好だな」父は笑いながら屈伸を真似てくれた。


 カホが最も心配しているのは、父の腰だった。巨体ゆえに細かな手作業は負担が大きく、父は慢性的な腰痛もちだったから。異世界に温湿布おんしっぷはないし、痛み止めもない。血行を促進して痛みを和らげる温泉もない。


「父さん、夜、眠る時はね、上向きよりも横向きの方がいいんだよ」

「横向きだって? そんな寝方、耳にしたことが一度もないぞ」

だまされたと思って、今晩からやってみて。絶対、腰痛に利くから」

「おいおい、父さん、騙されるのは嫌だなぁ」


「本当はダイエットもしてほしいんだけど」

「ダイエート? カホは時々、わからない言葉を使うなぁ」

「ざっくり言うと、食べるものを少なくして、身体を軽くすること。それだけで随分、腰痛が軽くなると思うよ」

「はははっ、食べるものを少なくしたら、父さん、腹ペコで死んじゃうよ」


 そんなやりとりも今となっては懐かしい。カホの心配が的中して、父が突然、ぎっくり腰になってしまったからである。もはや赤ん坊みたいなヨチヨチ歩きしかできず、背中を曲げて細かい手作業をすることもできない。道具屋は必然的に、休まねばならなくなった。


「すまない、カホ。少し動くだけで激痛だし、本当に死ぬほど痛いんだ」

「うん、ぎっくり腰の痛さは知っている。〈魔女の一撃〉というほどだからね」

「魔女? この痛みは魔女の仕業なのか? 身に覚えがないぞ。どうして、魔女なんかに恨まれるんだ?」

「そういうことじゃないよ。とにかく安静第一。私たちの心配はいらないから、ゆっくり腰を治してね」


 自慢ではないが、カトー家に蓄えはない。父が働けないと、すぐに立ち行かなくなってしまう。カトー家の危機を救うのは、カホとショウしかいない。二人で力を合わせて、この窮地を逃れなければならなかった。


 ショウは近所の手伝いをして、家族のパンや野菜を手に入れていた。ただ収穫期や祭りがある時など、どうしても一時的な作業になってしまう。それだけでは家族三人は暮らしていけない。


 おカネが絶望的に足りない。抜本的な解決法が必要だ。引っ込み思案など言っていられない。もはや迷っている暇はなかった。カホは必要に迫られて、以前から考えていたビジネスを実行に移すことにした。


 まず、カホはショウと一緒に森に入り、一日がかりで、大量の木のつるを手に入れた。異世界特有の名もない品種である。この蔓を天日干てんぴぼしで乾燥させ、表皮をむく。さらに弱火であぶると、とてもやわらかくなり、加工がしやすくなる。


「姉ちゃん、一体、何を作るんだ?」

「ブレスレット。手首にはめる装身具だよ」

「ふうん、ソーシングか。なるほど」そう言うが、たぶんショウはわかっていない。

「で、いくつ作ればいいんだ?」

「そうね、とりあえず、百個かな」

「百個ぉ⁉ そんなに作って大丈夫? 本当に売れるの?」


 カホは真顔になり、キッパリとした口調で、

「ショウ、売れるか売れないかじゃなくて、絶対に売るのよ」と告げた。


 真面目で誠実なショウは、単純作業が得意である。父譲りの器用さも持ち合わせている。すぐに蔓の加工に慣れた。カホよりも素早く上手く、商品加工を進めていく。


 このブレスレットは、元手のかからない商品だった。原価がゼロだし、ショウと二人で作業をしているので、人件費もかかっていない。必然的に利益率は高くなり、売り上げのほとんどが利益となる。


 残された課題は販売ルートである。どうやって、消費者の元に届けるか? 異世界の流通は未発達である。都市部にはギルドがあるが、辺境の城下町にはない。売り手と買い手をつなぐ問屋もない。


 最初は父の道具屋と同じ販売ルートを考えて、馴染の販売店に話を持ちかけたが、どこからも(かんば)しい結果は得られなかった


 考えてみれば当然だ。異世界の一般庶民には、ブレスレットという概念がない。装身具を身に着けるのは一握りの王族だけであり、庶民には無縁の代物である。簡単に売れるはずがなかった。


 庶民に手の届く価格設定にする必要がある。しかし、ただ安売りをすればいいというものではない。商売として成立させ、売り続けていく必要があるからだ。


 ビジネスとして成立させるためには、何が必要か? 言い換えれば、ブレスレットを広く売るためには、何が必要なのか?

 

 ベストは異世界でブームを巻き起こすことだろう。

 では、ブームを巻き起こすためには、何が必要か?


 大雑把おおざっぱではあるが、カホには一つのアイデアがあった。




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