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彼女が仕掛ければ飛ぶように売れる  作者: 坂本光陽


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10/10

エピローグ


 異世界における口コミの効果は絶大である。イースターでの大成功のおかげで、〈ハッピー焼き〉の美味しさは広く知れ渡った。一般庶民だけでなく、貴族も口にするようになり、一大ブームを巻き起こした。


 ひっきりなしに注文が舞い込んでくる。うれしい悲鳴とは、まさにこのことである。ついには王族にまで召し上げられるようになったのだ。あまりにも想定外のことが起こり続けるので、まるで夢のような出来事に思えた。


 ただ、カホには決断を下さなければならない時期がきていた。ショウと子供たちの作業量には限界がある。仮に連日徹夜でつくり続けたとしても、全然足りないというのが現状だったのだ。


 そこで、カホは大きな決断をした。〈ハッピー焼き〉を食べたいと望む人々に、できるだけ多くのそれを提供する。そして、笑顔で食べてもらう。そのことを第一に考えたのである。そのために格好のシステムが現世にあった。


 それはフランチャイズ制である。カホは惜しげもなく希望者にレシピと販売法を伝授し、その代わり売上げの一部を受け取ることにしたのだ。〈ハッピー焼き〉の高まるニーズに応えるためだったが、これは異世界初のフランチャイズ制ということになる。


「私は信じられないよ。ノウハウを独り占めにせずに、希望者に分け与えるなんて、あんたはどこまでお人よしなんだろうね」そう言って、アニーは苦笑した。

「私たちのつくる〈ハッピー焼き〉の枚数なんて、たかが知れています。それよりも安定的に供給するためには、ノウハウをオープンにするしかない、と思ったんです」


「はたして、売上げの一部をもらうことができるかねぇ。全然売れなかったと嘘を吐いて、売上げを懐に入れる奴が続出するよ」

「そうでしょうか。私は性善説を信じています。万が一、ズルをする人がいたとしても、そんな人は長くは続かないと思います」


 性善説という言葉は異世界にはなかったが、そのニュアンスはアニーに伝わった。悪人は確かに異世界にもいる。しかし、総体的にお人よしが多く、考え方がシンプルであるせいか、狡猾な詐欺師などは存在しない。少なくとも、カホの目にはそう映っていた。


 結論から言うと、カホの考えは正しかった。不正を行う者は、他にも多くの不正を行っていた。周囲の恨みを買い、迷惑をかけているため、ごく自然に淘汰されてしまう。温暖な気候のせいが、異世界の人々は基本的に善人が多い。性善説に基づいたシステムの推進は、あながち間違っていなかったのだ。


 カホが異世界に導入したのは、フランチャイズ制だけではない。その後も、ロゴマーク導入などのCI戦略、消費者ニーズに基づいた新商品開発、流通チャネルの強化など、マーケティングのノウハウを一つずつなぞるように、カホは新たなビジネスを打ち出していった。しかも、それらは一つ残らず、大きな成果を上げたのだ。


 まさに異世界初マーケターの面目躍如めんぼくやくじょである。

 ショウの言葉を借りるなら、「まるで魔法のような」活躍ぶりだったのだ。


 カホの挑戦は始まったばかりである。目の前の問題を一つ一つ解決しながら、確実にマーケターとして成長していく。そんな未来が待っているのかもしれない。そして、やがては異世界のシステムそのものを変えていくことになるのかもしれない。


 ただ、それはまた別の話であり、まだまだ先の話となるだろう。



                  了


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。異世界転生ものは初めてでしたが、楽しんで書くことができました。ご意見などありましたら、どうぞ、お聞かせください。

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