まえがき
本作は、十八世紀から十九世紀にかけての英国の社会構造を模した世界観を舞台に描かれています。
「秩序ある不平等」という理念のもと、国王を頂点に、王族、貴族、地主階級、専門職階級、一般労働層、そして貧困層に至るまで、厳然たる社会階級が存在しています。
利子や配当、地代といった不労所得によって暮らすことが「高貴な生」とされ、それ以外の生き方は「卑賎」とみなされる価値観が、社会全体に深く根を下ろしています。
主人公である七海は、地主階級という上流層に属し、その中でも特に高い地位にあります。さらに大学を卒業していることから、性格にはしばしば「傲慢」とも取られる一面がのぞきます。
一方で、家柄の歴史が浅く、女性であり、爵位も持たないという出自ゆえに、名門貴族からは侮蔑され、平民からは嫉妬を交えて崇められるという、複雑な立場に置かれています。
また、幼くして両親を亡くし、天涯孤独として育った生育環境であるため、対人関係や日常生活においては極端に不器用な一面も抱えています。
ちなみに筆者も、某有名駅前に土地を有する地主の長男であるため、中々に傲慢です。このやや珍しい出自に起因する、選民意識じみた劣情や、社交性の乏しさからくる生活能力の低さなどを、主人公に色濃く投影した――渾身の筆致で描いた作品です。
地主特有の傲慢さと、常識の欠如。その滑稽さと哀愁を――ポテトチップスでも頬張りながら、どうぞお楽しみいただければ幸いです。