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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄&国外追放された元聖女(男)だけど幸せになりまーす!

作者: ふうこ

「エルディリーア、あなたとの婚約を破棄する!」

「婚約破棄、ですか……」


 万歳!!! 三唱!!!!!

 婚約者になってから約3年、私は初めて彼を抱きしめ頬にキスして高く掲げてくるくる回したい衝動に駆られた。やらんけど。

 婚約者であった第三王子からの告知を受けた私の内心は、一言で要約するなら「良かった!!!!!」だった。






 さて、どうして良かったのか。答えは簡単だ。


「私が男だからなんだよなぁ……」


 笑えない。ほんとうに、笑えない。というか、良かった本当に良かった心の底から良かったー!!!!!

 聖女に認定されたときも大概だった。勘弁してくれ、だった。世間様の評判だってあの男女が聖女だってよーぷーくすくすだったんだぞ! そりゃ並の女性――どころか男性よりも身長があり体格的にも細身とは言え筋肉しっかりついた私の体はどこからどう見ても可憐な少女には見えなかろうよ! 一応胸に詰め物はしてました!


 婚約破棄を言い出した王子の横には妹がいた。どうやら彼女が次の婚約者らしい。同じ家の娘で乗り換えするってすっげぇなと思わなくもなかったが、彼女の方が普通に女の子だし王子ともお似合いだと思う! というか、王子なんだから血脈の保全的にもちゃんと子供が産める女の子を娶る方が絶対良い! 間違いない!

 妹については別に何も思わない。大体、貴族家の子女なんて、親の言うなりに結婚するものだし。彼女が後釜に据えられたのもどうせあのクソ父の思惑だろうから、別に彼女に他意はない。彼女の方にも多分ない。なんとも言えない表情してたしね……。


 ついでに聖女認定も外された。具体的には偽聖女扱いになった。

 妹も聖女で、私が聖女となった翌年から聖女として活動をしている。けれどどうしてか、私たちが聖女となって活動するようになってから急速に結界が悪化していた。その原因が私だったことをどうやら王子は突き止めたらしい。

 ……うん、だよねぇ……! それは私もそう思う! やはり聖女は女! 女の子の聖女が正しい! 聖女だけに! 全面的に賛成です!


 国の結界に被害を与えた罪を非難され詰られて、その清算のため国外追放も言い渡された。

 死罪としないのを最後の情けと思えと言われた。


 確かにそれはかなりの恩赦だ。消滅こそしてないものの、結界の汚損はかなりのものだったのだから。ここからの立て直しも大変だ――残された妹には申し訳ないが、頑張って維持し、補修していって貰いたい。これ以上は何もしないことが自分に出来る精一杯だ……。

 ……一応、私が魔力を注ぐとなんとなく補修されているような感触はあったんだけど……。でもまぁ、王子もここまで自信満々に私が原因だと言うのだし、私が原因なんだろう。あれは気のせいだったんだな。うん。やっぱ原因私だよ。私、男だし。


 身を偽っていた罪悪感に半ば押しつぶされそうになりながらも、私は王子と妹に礼を尽くした。

 護送には、王子の護衛に付いていた近衛兵の一人を当ててくださるそうだ。私が確かに国を出たかを確認する任を帯びているらしい。道のりはおおよそ2週間。往復ならば一月だ。随分な貧乏くじだろう……申し訳なく思いながら宛がわれた人物を見上げれば、そこにはなじみの顔があった。

 学園で同級だった、ルイスだ。幾度も剣を交わし合った仲だった。


 笑い出してしまいそうな衝動を、必死で堪えた。

 本当になんというご縁だろうか。王子も粋なことをしてくださる。――そうか、彼に見送って貰えるのか。それは、……とても良いなぁ。嬉しくて、少しだけ涙がにじんだ。






 さて追放だ。

 荷物などを取りに実家に寄ることは最後の情けとして許された。立ち寄った実家の自室で、私は母の形見の本を1冊と下着を数枚、それから短剣と短弓と剥ぎ取り用のナイフに秘蔵の調味料それから処理済みの薬草各種、日持ちするよう拵えて蓄えていた乾燥野菜と果物を少し、それから野営用のテントにもなるタープ、厚手の毛織り布――

 あ、ついでに着替えていこう。マントはどこへやったっけ?


「……何をしているんですか、エル」

「やあ、ルイス。折角だから身軽な服に着替えようかと」

「……その胸の詰め物は」

「いやだなぁ、ルイス。レディの着替えを覗くだなんて」

「レディじゃないだろ!」

「バレたか!」


 荷造りついでに着替えていたら、あまりの遅さに業を煮やしたルイスに部屋の扉を開けられた。バレた。

 ……まぁ、いいか。どうせ2週間もずっと四六時中一緒にいたらどこかでバレてた。早くにバレた分精神的な負荷が減ったと思おう、うんうん。


「あなた、女じゃなかったんですか。道理で――」

「『俺が剣で勝てないわけだ』って?」

「一応99勝99敗です! 引き分けですから!」

「当時は女に負けたって随分周りから腐されてたもんなぁ。ごめんな!」

「他の奴らはそれこそ惨敗でしたから。すぐに消えましたよ、そんな評判」


 確かに。なお私はゴリラ姫の評判が大変高くなったっけな! いやぁ、懐かしい!

 それで婚約破棄――? いやだが、それにしたって――と何やらブツブツ言い出したルイスを尻目に、チャッチャと着替えた。バレたならもういいや。ドレス以前にスカートなんてはいてられるか! ズボンだズボンー!


 いつも狩りの時に身につけている綿のシャツ、上からは厚手のチェニック、腰に太いベルトを巻いて、そこにいくつもポーチを吊した。矢筒と短剣、ナイフも腰のベルトに固定する。長く伸ばした髪は適当に編んで括った。弓も背負う。


「完全に狩人ですね」

「狩人だからね」


 自室は本館とは離れたところにある掘っ立て小屋だ。外には簡易のかまども組んで、そこで煮炊きも出来る用になっている。――つまり、結構な頻度で食事さえも抜かれていた。食うためには狩りも採取もしなくちゃやってらんない待遇だった。

 ルイスも実用品にあふれかえった野趣味溢れる室内を見て色々察してくれたのだろう、取りあえず荷造りを手伝ってくれた。主に食料関係で。あ、これルイスも一緒に野営する流れになるな? よし、ならおっちゃんの残していった野営道具一式もこいつに持たせよう。ということでセットにして押しつけた。馬車の荷台に載るかなぁ。


 見送りはなし。まぁそんなものだ。私はルイスと二人で、逃げるように館を去った。実際、追放刑だしな。

 一応小屋の中に世話になった礼をしたためた文を残した。父が見るかどうかは知らんが、礼儀だ。


 護送用の馬車は簡素なものだったが、その分荷台はしっかりしていた。そこにはすでに御者とルイスの荷物が乗せられていたのを少しだけずらして、自分のそれも積み込んだ。現れた私の姿に御者はぎょっとしていたが、知らぬ振りで車内に乗り込む。ルイスの定位置は私の隣――つまり、脱走しない用の見張りだ。幸い手かせ足かせは填められなかった。


「それにしても、君はあの頃と変わらず、私を『エル』と呼んでくれるんだね」

「……申し訳ありません、ご無礼を。きちんとエルディリーア様とお呼びするべきでした」

「別に良いよ、エルで。あと無礼も何も、私はもう王子殿下の婚約者ではないし、それどころか罪人だし」

「罪人ではないでしょう」

「……罪人だよ。王子殿下がそうおっしゃってたじゃないか」


 マントを折りたたんで馬車の座席に敷く。これで随分腰が楽になるはず。何しろ悪路を木の座席の馬車で行くのだ。

 行儀が悪いと咎められるかと思ったけれど、ルイスは「なるほど」という顔をしていた。君もやると良いかもよ?


 夜は宿場町に到着した。ここを過ぎると一気に宿が減るらしい。野宿が出来る用に野営場があり、それを近隣の村が管理しているとのことだった。まぁ食料はある程度持ってきたからどうにかなるだろう。宿の食事はなかなかだった。道行く者たちに供するだけに量はたっぷり。そして何より、温かい。具だくさんのシチューに雑穀を混ぜで焼いたパンを付けて食べればそれだけで十分ごちそうだった。

 美味しそうにそれらを頬張れば、ルイスも御者もが不思議そうな顔でこちらを見ていた。


「君らは食べないのか?」

「いや食べますけどね」

「嬢さん、美味そうに食うなぁ……そんなたいそうなもんでもないでしょうに」

「いやいや普通に美味しいよ。教会で出るのは冷たく冷えた粥が一杯とかが普通だし、実家じゃ食事がない日も普通にあったし、学園も金がなくて下町まで食いに出たり色々してたから。それと比べりゃ上等の部類だ」

「どうりであなたの姿を食堂で見なかったわけだ……」

「苦労してんすね、嬢さん……」


 モリモリ食べてさっさと休む。酒飲んでも良いっすかね、と言い出した御者は、ルイスが睨んで止めていた。……まぁ、一応仕事中みたいなもんだしね。二週間は禁酒してくれ。

 宿もそこそこの部屋を取ってくれたらしく、――しかして、二人部屋、である。おいおい。

 いや、そりゃ護送だからな。そうだろうね。正しいけどね!?


「令嬢であれば問題だったでしょうけど、あなたが男だと知れたから俺としても気が楽ですよ」

「まぁそうだろうけどね。そうではあるんだけどもね!?」

「なんです? それとも逃亡のご予定でも?」

「ないけど! 君は、もうちょっと、危機感を持っても良いと思う!」

「危機感。……いや、危機感って。そっくりそのままお返ししますけど?」

「私が!? 言っとくけど私は強いし。君に襲われたところで簡単に撃退できるし! それより君だよ! 私に襲われたらどうするんだよ!」

「あなたが。俺を、襲う。ははっ」

「鼻で笑った!」

「いやだって、出来るものならどうぞとしか」

「言ったな! 後悔するなよ!」


 本当の本当に、後悔するなよ!?

 言っとくけど、私は大概、初恋をこじらせているんだからな!?


 ルイスと出会ったのは学園だ。同級生で、偶然隣の席で、大柄な私の姿を誰もが影で笑っていたのに、ただ一人笑いものにしなかった人だった。それどころか無駄のない良い筋肉だと褒めてくれてた。それが嬉しくて、剣術の授業を取っていた彼を追って私も剣術の授業を取って試合して、たたきのめして、たたきのめされて、良きライバルの地位に収まった。


 私が女として育てられたのは、母の方針だった。私が生まれた時、すでに父は妾との間に男児を一人もうけていて、正妻ではあったものの実家を亡くし後ろ盾のない母は私の先行きをひどく案じた。具体的には父と妾に暗殺されることを恐れた。血筋的にはどうしたって私の方が上になり、けれど父の思惑としては愛する人の子である兄の方に軍配が上がるだろうと予測したのだ。かくして母は、私の命を救うため、私を女として出生の届けを出したのだった。

 つまり、生まれた時から私は女として育てられ、それに違和感を持つことなく成長した。


 母は私が生まれて間もなくなくなり、後は乳母と、乳母の乳母子の二人が親代わりになって私を長らく育ててくれた。

 その時にはもうあの館の外れにある小屋が私の部屋だった。

 あの小屋で、私は乳母から令嬢としての知識と礼法、乳母子からは森での狩りや採集、護身術や武術全般を叩き込まれた。

 狭い世界の中で、自分が女であることを疑うことなく成長した。


 そして社会の荒波――学園へ入学し、自分が周囲とあまりに違うことに驚いた。

 どう考えても色々おかしかった。並の令嬢どころか令息たちよりも私は立派な体をしていて、彼らよりずっと強かった……。その中で自分と同等に戦えるルイスは特別な存在だったし、なんだかんだで仲良くなったし、――……いつしか彼に恋をしていた。


 叶わない思いなことは知っていた。だってお互い貴族家の人間だ。結婚は家が絡み親の思惑が優先される。家格も違った。こちらは腐っても片隅に追いやられていても男女であったとしても侯爵家の長女、ルイスは割と傾いている男爵家の、それも5男だ。流石に無理だ。

 そうする間に15になり、なんと私は聖女になった。聖女となれば、王族との婚姻が義務づけられる。そういうワケで、同じ年齢の第三王子の婚約者にさせられた。翌年には妹も聖女となったが、彼女は王族に連なる公爵家の次男がいくつか年下に居たために、彼の成人を待って婚約をする予定になっていた。

 そして聖女になって3年。お勤めを果たしてきて――聖女ではなかったことが発覚し――今! というわけだ。


 その間、私の思いは何一つかわらなかった。王子殿下の婚約者となったのだから、彼を慕うべきだと、頭ではちゃんと分かっていた。それでも心を偽ることは出来なかった。

 ずっとずっと、彼だけを想っていた。王子の護衛として彼の背後に彼の姿をみとめながら、心を押し殺しながら、聖女の勤めを果たしていた。せめて早々に次代が見つからず、出来るだけ長く婚約者のまま、聖女を続けることだけが望みだった。なのに翌年には妹が聖女になったから、私は今年にはもう聖女の役目を降りて王子殿下と婚姻を結ぶことになっていたんだ。


 婚約が破棄になって、これでもう王子殿下と結ばれる必要がなくなって、どれほど嬉しかったか。

 追放となり家からのしがらみからも解放されて、君以外の誰かと結ばれる未来を誰からも強要されなくなったのだと思った時の歓喜を、きっと君は知らないだろう。ましてや、国を去る最後のこの時間を、君と過ごせることになった。

 そのことにどれほどの幸福を感じているかなんて。


 私は眉を怒らせたまま、ルイスにツカツカと歩み寄った。腰のベルトをずるりと引き抜き、寝台の一つへ放り投げる。武器の付いたそちらにほんの一瞬ルイスの視線が移った隙に、一気に踏み込み押し倒した。寝台の上はどうやら薄い布団が敷かれるばかりだったらしく、ルイスの頭がゴツンとえらい音を立てた。


「ごめん! 大丈夫!?」

「……押し倒すにしてももうちょっと穏便にしてくださいよ、エル」

「……だって。君がやれるものならやってみろみたいなことを言うから……」

「それは、されたらされたで俺としては歓迎すべき展開だからですね」


 ぐい、と腰に手を回され、抱き寄せられた。視界が全て彼で塞がれ、鼻が肩にぶつかった。痛い。痛いけど、頭が混乱して何も考えられなくなった。だって温かい。こんな、こんな近くに人を感じたことなんて――!


「さて、俺としては、あなたを抱きたい側なんですけどね。あなたはどちらが希望ですか? やっぱり抱きたい側?」

「だ、抱かれたい、側、だよ……」

「なに突然しおらしくなってるんですか。……でもそうか、それならちょうど良かった」


 その夜、私たちは結ばれた。

 色々性急すぎてちょっと混乱してテンパってしまったけれど、幸い彼がちゃんと……うん、すごく、良かった……。


 明けて翌日。

 明らかに空気のかわった私たちを、御者は「わー……」ともの言いたげな半眼で見ていた。即気付かれた。

 しょうがないだろ!? 同じ空気感でなんていられるわけないじゃないか!!!






 旅は順調だった。お天気にも恵まれた。

 初日はまぁ……盛り上がったけど! 翌日からは流石に控えたし野営でそういうことは出来ないし、見張りも要るから、2人交代で見張りになった。御者は恐縮したけど、私たちは昼間の移動時、馬車の中でも休めるからね。振動とか色々あるから熟睡は難しいけど、そこはそれだ。

 野宿の際は私が料理の腕を振るった。幸い二人ともに好評で、美味い美味いと食べて貰えた。宿に泊まれるときはちゃんと泊まって、同衾も……可能な限り頑張って。思い出をたくさん、貰って。

 そんな感じで2週間。ようやく国境へとたどり着いた。


 国は結界で覆われているから、ここが結界の境目だ。出てしまえばもう戻れない……追放だからね。

 随分と減った荷物を馬車から降ろして整理した。ここから隣国の一番近い町までは歩いて5日ほどだと聞いている。幸い隣国側も道はそこそこ整っているから、迷うことはないだろう。

 多少コンパクトにした荷物を背負う。重いけれど、取りあえずなんとかなりそうだ。


「送ってくれてありがとう、ルイス。最後の時を君と過ごせて……嬉しかった」

「何言ってるんですか、エル。勝手に最後にしないでくれません?」

「だって、最後だ。私は追放された罪人で、君はその罪人を国外まで送り届ける騎士じゃないか」

「大丈夫です。辞任してきたので」

「……辞任してきた?」

「即辞めるだと任に付けないから、友人に丁度今日辺りで提出するように託してきたんですよ。最初から、最後まであなたに付いていくつもりでした」

「でも、どうして――」

「あなたは罪なんて犯してなかった。罪を犯しているとしたら、それは王子と君の妹です」


 なんとびっくり。王子と妹は去年からずっとそういう関係だったらしい。妹が聖女に選出されてすこししてかららしいので、もう1年近く関係を続けていたのだそうだ。……そう言えば、最初の一年はほころびは比較的小さかった。妹が聖女になって少ししてからだんだんほころびが大きくなっていったような……?


「あなたはちゃんと……清らかだったじゃないですか」

「いやそういう――そっちが原因だったってこと!?」

「あなたが崩壊をとどめていたんだから、結界ももう少ししたら壊れるんじゃないかな? まぁ例え壊れたとしても、あなたももう聖女の役割には戻れないんです。諦めて一緒に隣国に行きましょう」


 男爵家の5男で後継問題はないし、近衛ではあったが第三王子が元同級ということで嘴を突っ込み好きに使い走りにしてくるし、そもそも惚れた女が婚約者から粗雑に扱われているのを延々3年間も間近で見続けてきていい加減我慢出来なくなっていた。

 そして、そこへあの婚約破棄に聖女下ろしに国外追放だ。

 まぁ女だと思っていたら実は男だったけれど、そこは大きな問題ではないらしい。いや、問題だと思うんだけど……違うの? そっかぁ……。……それはちょっと、いや、すごく、嬉しい。


「王子が自ら手放したんです。俺が貰ったって良いでしょ? って思って。幸いあなたも、なんだか逆に嬉しそうだったし」

「そりゃ王子と一緒にならなくていいのはこっちとしても渡りに船だったし、……君が最後を送ってくれるっていうし」

「本当は隣国に着いてから口説き落とすつもりだったんですよ」


 ルイスもまとめた荷物を背に負った。にこりと笑って、彼は私に手が差し出した。

 どうしよう、嬉しくて顔が全然締まらないよ。こんなの、どうしたって笑ってしまう。


「送ってくれてありがとう! 君も気をつけて帰ってね!」

「こちらこそですよ! お二人ともお気を付けて!」


 手を振って立ち去る馬車を見送って、それじゃあと手をつないだまま、二人揃って踏み出した。

 結界は緩やかに二人を包み、外へと吐き出す。――その瞬間、パチン、と弾けた。


「「あ」」


 壊れたね。壊れましたね。

 二人とも、声には出さず顔を見合わせ、笑い出した。






 少しだけ未来の話をしよう。

 結界は結局そのまま消えた。元から他の国々は結界なんてなかったのだ。ないならないでないなりに、国はそこそこ回っていった。国内に魔物は増えたから犠牲者も増えて、軍の仕事や狩人の仕事は増えたけど、それだけ。

 王子と聖女は結ばれたけれど、役割を果たせなかった二人として微妙に居心地の悪い余生を送った。

 侯爵家は家から罪人に役目を果たせなかった聖女を出して、罪には問われずとも少しずつ傾いていった。


 そして、隣国に渡った二人は。


 冒険者ギルドに登録して、二人組で活動を開始した。

 凄腕剣士のルイスと魔法剣士のエルは順調に魔物を狩っていき、地位と名誉と報酬を得た。苦しいときも辛いときも支え合って二人三脚、まるで夫婦のように仲睦まじく、間には誰が入る隙間もなかったほどだそうだ。


 生涯にわたり、ずっと。


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