99. えっち
王宮内での宴に参加した翌日、ルナとエマは引き続き王宮に滞在し、体を休めていた。
セドリックが、二人にそれぞれ広々とした部屋を用意してくれていたのだ。
エマは朝から、王宮の人々が用意してくれた豪華な朝食を楽しみ、部屋でゆっくりとくつろいでいた。
その後、セドリックに案内された王宮内の大浴場へ向かうことにした。大浴場には、疲労回復の魔法が施されており、エマはその効果を試すのを楽しみにしていた。
魔法の湯気が満ちた広間は天井まで高く、壁には美しい魔法のルーンが刻まれている。湯には疲労回復の魔法が込められており、浸かるだけで体が軽くなるような心地よさを感じた。
エマは湯船の端に手をかけ、闘技大会での出来事を思い返していた。なぜ自分があの場で国王を救えたのか。相手の魔力量は圧倒的だったはず。それでも、ソルヴィールが応えてくれたのはなぜなのだろう。
ふと視線を奥へ向けると、湯気の中に誰かの姿が見えた。
「おお、エマか」
不意打ちの声に、エマは体をびくりと震わせた。
「……なんで女風呂にいるのよ!」
「女だからな」
ルナは淡々と答えた。
エマは顔を真っ赤にし、慌てて湯から上がろうとしたが、タオルを巻きながら肩越しに睨みつけた。
「ルイの馬鹿!」
ルナは湯船に身を沈めたまま、手のひらで湯をすくいながら言った。
「昔はよく一緒に入っただろ。それに、せっかくだ。疲れが取れるまで浸かっていけ」
エマはため息をつき、渋々湯船に戻った。
「もう……」
怒りの余韻を残しながらも、湯の中で身を落ち着ける。ふと視線をルナに向けると、彼女の首からソルヴィールが三つ揺れていた。
「……無事に手に入ってよかったね、フレア・ソルヴィール」
ルナは静かに頷き、湯の表面を指でなぞった。
「今回もエマのおかげだ、ありがとう。……強くなったな、エマ」
その言葉にエマは胸がじんと熱くなり、小さく頷いた。
「どうしてうまくいったのかわからないけど……そういえば、リアナも来てたね」
「あいつは魔法連盟に就職するんだろう」
「仲良かったよね?」
「同じカレッジなだけだ。それに、古代魔法具を探して近づいてきただけだろう」
「そうかな? それだけじゃないと思うけど」
ルナは眉をひそめたが、エマは微笑みで返すだけだった。
「それより、闇の魔法使いに顔を見られたな。エマの才能にも気づかれただろう。今後も慎重にいくぞ」
「うん……気をつける」
湯気の中で静かな時間が流れた。
突然、ルナが声を低くして言った。
「エマ、そっちに行ってもいいか?」
「……えっち」
ルナは即座に反応する。
「違う。魔法の効果を上げてやる」
「……わかった」
ルナがエマの背中にそっと手を置き、魔力を込めると、エマは全身から疲れが溶けていくような感覚を味わった。
「ルイは本当に何でもできるんだね」
感謝の笑みを浮かべてルナを見つめると、彼女の頬がほんのり赤く染まっていた。
「大丈夫?」
「のぼせただけだ」
ルナは顔をそむけ、湯の中で静かに目を閉じた。




