97. 王子
翌日、エマとルナは王宮内の客室でセドリックと会うことになっていた。
部屋で待っていると、いつもの陽気でカジュアルな雰囲気とは違い、王子としてきちんとした服装のセドリックが扉を開けて入ってきた。
彼の顔には、普段の楽しげな表情はなく、どこか真剣なものが宿っている。
「もう、大丈夫なのか?」
セドリックはエマを見つめ、優しく尋ねた。
エマは軽く頷きながら、微笑んだ。
「はい! 私、ずっと寝てたみたいで……すみません」
「気にしないでくれ」
セドリックはエマの謝罪を一瞬で払いのけるように、肩をすくめて続けた。
「エマとルナはヴァルディアを救ってくれたんだ。感謝してもしきれないくらいだ」
その言葉にエマは少し照れくさそうにしながらも、心からの感謝を感じていた。セドリックは少し間を置き、次の話題に移った。
「実は、国王の様子は半年ほど前からおかしかったんだ」
セドリックは深刻そうに言った。
「それに、フレア・ソルヴィールをかけた闘技大会を開催するとまで言い出して……まさか、闇の魔法使いに乗っ取られていたとは思わなかった」
ルナは黙って聞いていたが、静かに口を開く。
「気づけなくて当然だ。おそらく奴は禁呪を使っていた。まだ死んではいないだろう」
セドリックはその言葉に驚いた。
「本当に……君は強い魔法使いだな。それにしても、闘技大会の決勝戦は途中だったが、フレア・ソルヴィールは君に託すべきだと思っている」
ルナは少し考えてから答える。
「それはありがたい」
セドリックはにっこりと微笑みながら言った。「魔法連盟が何か言ってくるだろうが、こちらで誤魔化しておくよ」
エマはその言葉を聞いて、少し沈んだ表情になった。「まだ終わってないんだね……」と、心配そうに言う。
ルナは少し考え込み、エマを見つめながら言った。「ヴァルディアは大丈夫だろう。狙われるのはフレア・ソルヴィールを手に入れた俺たちだ」
その言葉にエマは一瞬だけ不安そうに目を伏せたが、すぐに顔を上げ、力強く言った。
「そうだね……次からも一緒に戦おう。私、もっと強くなる」
ルナはしばらくエマを見つめた後、ゆっくりと手を伸ばし、エマの頭にポンッと手を置いた。
「頼りにしてる」
その様子を見ていたセドリックも、柔らかな笑顔を浮かべた。
「国王も体調を回復した。今晩はエマの回復を祝って盛大な食事を楽しもう。王宮にはしばらく滞在してもらって構わない。闇の魔法使いたちも、すぐには襲ってこないだろう」




