95. 決着
闇の魔法使いの放った隕石が、炎の咆哮とともに空から急降下する。その巨大さはコロシアムだけでなく、街全体をも飲み込む勢いだ。
「これが……フレア・ソルヴィールの力……!」
セドリックは立ち尽くし、信じがたい光景を見上げた。
その時、静かにポケットに手を伸ばしたルナが、学長から託された杖を取り出した。
「これで終わりよ」
彼女の目に一切の迷いはなかった。杖を掲げ、ルナは高らかに呪文を唱える。
「ドラコ・テンペスタス!」
その瞬間、杖の先から放たれた水の魔法陣が広がり、そこから水の龍が吠えるように飛び出す。その身体は闇の隕石を遥かに超える大きさで、まるで生きているかのように渦を巻きながら空へと突進した。
「押し返せ!」
ルナの声に呼応するかのように、水の龍が隕石に激突し、凄まじい音が空間を裂く。炎と水がせめぎ合い、轟音と爆発の光が空を満たす。
「その力……その杖……! 君、一体何者だい?」
闇の魔法使いの目が細まり、薄い笑みが広がる。
ルナは冷静さを崩さず、杖を握り締め続ける。だが、突然コロシアムの上空に無数の影が現れた。闇の魔法使いたちが姿を見せ、ルナを取り囲むように配置につく。
「まさか……!」
セドリックが歯噛みする。
闇の魔法使いたちの手に宿る黒い炎が次々と放たれる。ルナは隕石を食い止めているため、手が離せない。もはや防御は不可能だ。
だが、その刹那――
「防御は俺に任せろ!」
空から二本の巨大な剣が光の如く舞い降り、闇の魔法を弾き返した。
観衆がどよめく中、コロシアムの伝説の英雄ヴァリス・アルゼイドが堂々と姿を現す。
「国王様! おやめください!」
鋭い声が場を切り裂いた。
闇の魔法使いの瞳がぎらつき、口角を上げる。
「おやめ? フフフ……これは私の意志だよ」
ヴァリスは剣を構えたまま、悲痛な表情で叫ぶ。
「王の身体を操っているのか……!」
ルナの龍が隕石を押し返している間も、闇の魔法使いたちは次々と攻撃を繰り出す。ヴァリスとセドリックが前に立ちふさがり、全身全霊で防御を試みるが、次第に追い詰められていく。
「フレア・ソルヴィールの力はまだまだこんなものじゃないよ」
闇の魔法使いが不気味な笑みとともに呟くと、新たな破壊の魔法陣が空中に現れる。
――その時。
観客席から駆け上がった一人が、コロシアムの中央で静かに杖を構えた。
「エマ……!」
ルナが小さく息を飲む。
エマは顔を上げ、全身から湧き出る魔力を集中させると、低くしかし力強く呪文を唱えた。
「コル・クエスキス!」
上空に広がる魔法陣が、一瞬の閃光とともに全てを覆い尽くす。
――そして、時間が止まった。
観客も、闇の魔法使いたちも、すべての動きが静止する。動けるのはルナ、ヴァリス、そして国王だけ。
「これは……時間停止魔法? 違う……! これは、心を止める魔法だ……!」
ヴァリスが驚愕の表情で呟く。上空の龍と隕石だけがなおも動き続けていた。
国王の口元がゆがむ。
「なんと素晴らしい魔法だ。だが私には効かない――」
その瞬間、国王の身体が激しく痙攣する。黒い闇が体内から押し出され、叫び声とともに国王の影から闇の魔法使いが滲み出てきた。
「な、なぜだ……!?」
国王の声が震える。
エマは魔法を解かず、最後の力を振り絞り続けた。
国王が地面に崩れ落ち、闇の魔法使いが完全に身体から追い出された瞬間、隕石は砕け散り、光の粒子となって消え去った。
コロシアムには静寂が訪れた。
ルナはゆっくりと歩み寄り、地面に落ちているフレア・ソルヴィールを拾い上げた。
その瞬間、エマの膝ががくりと崩れ、その場に倒れ込む。エマの魔法によって心を止められていた闇の魔法使いたちは、国王が倒れているのに気づき、その場から逃げるように消えていった。
「エマ!」
ルナは急いでエマのもとへ駆け寄った。
セドリックとヴァリスも、気絶した国王を見守りながら、深い安堵の息をついた。




