76. 絶世の美女
翌朝、宿の部屋に朝陽が差し込む中、エマは支度を整えながらも落ち着かない様子だった。
ヴァルディア・コロシアムで開催される闘技大会の出場登録のため、ルイとともに準備を進めていたが、どうしても不安が拭えなかった。
「ルイ、本当に大丈夫なの?」
エマは心配そうに振り返り、テーブルに腰掛けているルイを見つめた。
「闘技大会って、たくさんの魔法使いが集まるし……ルイが出場したら、すごく目立つんじゃない? それに、魔法連盟の人たちだっているかもしれないし……」
彼女の言葉を受け、ルイはふっと笑った。
「心配ない」
そう言うと、彼は手元にあった杖を静かに持ち上げた。
「本当に?」
エマの疑念は消えない。ルイは立ち上がると、杖を軽く振りかざし、口元で低く呪文を唱えた。
「メタモルフォーゼ・フィーメ」
その瞬間、薄紫色の光が彼の体を包み込む。エマの目の前で、ルイの背丈が少し縮み、肩幅が柔らかな曲線に変わっていく。長いまつげに縁どられた瞳が輝き、艶やかな髪が流れるように背中に広がった。
「……!」
呆然と立ち尽くすエマの目の前には、完璧に変身を遂げた絶世の美女がいた。彼女は信じられないほど整った顔立ちと気品を持ち合わせていた。
「どう?」
変わった声も澄んだ響きで、微笑みさえも優雅だ。
「う……嘘でしょ……こんなの反則だよ……!」
「これで魔力を抑えていれば、誰にも気づかれないだろう。名前も偽名を使えばいいだけだ」
女性の姿になったルイが得意げに微笑む。
「いや、名前の問題じゃない! あなた、美人すぎて余計に目立つって!」
エマはため息をつきつつも、その場にへたり込むように座り込んだ。
「大丈夫だ」
ルイはエマの反応を楽しむかのように、窓の外を見やった。
こうして彼女たちは、想定外の変装を施しながら、闘技大会に挑む準備を進めるのだった。




