75. 闘技大会
ルイとエマは必要な荷物をまとめ、ヴァルディアへ向けて旅立つことを決めた。闘技大会まで2か月あるとはいえ、道中での安全確保や、大会の下見が必要だとルイが判断したためだ。
「ヴァルディアは闘技大会の開催地ということもあって、多くの魔法使いが集まるだろう。その中には、フレア・ソルヴィールを狙う者もいるはずだ。慎重に動く必要がある」
ルイの言葉にエマはうなずいたが、どこか心配そうな表情を浮かべていた。
「それに、闘技大会に出場するには登録が必要だ。参加資格を得るための審査もあるかもしれない。先に準備を整えておこう」
数日間の旅支度を終え、ルイとエマはついにサンドリオを後にした。ヴァルディアまではそう離れておらず、街と街を繋ぐ列車に乗ることにした。
「列車で移動できる距離で良かったね」
「そうだな。ヴァルディアが近づいてきたら、ひとまずフードを深く被って顔を隠していこう。誰に狙われてもおかしくないからな」
列車が終点のヴァルディアに到着すると、エマは目の前に広がる壮麗な街並みに息を呑んだ。
白い石で造られた駅舎は、まるで宮殿のような威厳を持っており、駅前広場には噴水が輝き、たくさんの人々が行き交っている。
「さすがは闘技大会が開かれる街……すごいね」
エマが感嘆の声を漏らすと、ルイも頷いた。
「ヴァルディアは、伝統と魔法の融合が随所に見られる国だ。ひとまずコロシアムを目指そう」
ふたりは大通りを歩き出し、街の中心にそびえ立つ壮大な闘技場へと向かった。
ヴァルディアの街を抜け、大通りを進むと、やがて視界の先に巨大な建造物が現れた。
「これが……ヴァルディア・コロシアム……」
エマはその威容に足を止め、しばらく言葉を失った。
目の前にそびえるコロシアムは、白い大理石でできた円形の建造物で、遥か昔に作られたものとは思えないほど壮麗だった。
外壁には複雑な彫刻が施され、歴代の英雄や闘技大会の象徴が描かれている。そこに刻まれた魔法陣のような紋様が、微かに輝いて見えるのは魔法の力が込められている証だろう。
「まるで生きているみたい……」
エマがつぶやくと、ルイが隣で頷いた。
「このコロシアムは、単なる建造物じゃない。国が直々に管理していて、結界が張られている。外見の美しさだけじゃなく、その中に秘められた魔法の力も膨大だ」
近づくにつれて、観客や魔法使いらしき人々の姿が増えてきた。闘技大会の準備に携わる者たちだろうか、入口付近では魔法の光を使って装飾を整えたり、道具を運び込んだりしている。
「見て、あそこに大会のシンボルみたいなものがあるよ!」
エマが指差した先には、大きな魔法の旗が掲げられていた。旗には、燃え上がる炎の形をした紋章が描かれており、その下に「フレア・ソルヴィール」と古代文字で書かれている。
「こんなに大きな場所で大会が開かれるなんて……緊張しない?」
「緊張する暇はないさ」
ルイは冷静に答えたが、その声にはわずかな決意の色が混じっていた。
「大会の受付はもう始まっているようだな。宿を見つけて荷物を下ろしたら、明日にでも出場登録しよう」
ふたりは、再び賑やかな街中へと戻り、宿を探し始めた。




