72. 協力
ルイが静かにリーナを見つめながら口を開いた。
「リーナ、お前に言い忘れていたことがある」
その言葉に、リーナは眉をひそめながら彼を見返した。ルイは一歩前に進み、静かに続けた。
「俺の本当の名は、レオン・フェルマールだ。この意味が分かるか?」
「……フェルマール家? 壊滅したはずの、ソルヴィールを作った一族ね」
「その通りだ。だが、それだけじゃない。どうやら真の歴史は知らないようだな」
「真の歴史……?」
リーナは戸惑いの色を隠せない。
「いや、それはどうでもいい」
ルイは少し視線を逸らし、冷たい風を感じながら言葉を続けた。
「だがこれだけは断言できる。お前たちにフロスト・ソルヴィールは扱えない。その強大な魔力に飲み込まれるだけだ」
その言葉に、リーナは沈黙を守りながら、少し顔を伏せた。しかし、しばらくして彼女はポツリと言った。
「フロスト・ソルヴィールを使うのは私たちじゃないわ」
その一言に、エマはリーナを見つめたまま息を呑んだ。ルイの眉間にしわが寄る。
「じゃあ誰が使うというんだ?」
リーナが答えないまま沈黙していると、彼女の仲間の一人がついに口を開いた。やや年上に見える男性で、その目は深い決意に燃えている。
「俺たちは、魔法連盟に抵抗する反乱軍だ」
その言葉に、場の空気が一変した。エマの目は大きく見開かれ、リーナは舌打ちをするようにしてその男性を睨みつけた。
「黙っていなさい!」
リーナは彼を制止しようとするが、男性は構わず話を続けた。
「リーナ、もう隠しても仕方がない。この二人はただの敵じゃない。彼らと戦うよりも、協力を求める方が得策だ」
ルイは、男性の言葉に眉をひそめながら静かに口を開いた。
「反乱軍……噂では聞いたことがある。実在したのか」
男性はルイの視線を真正面から受け止め、落ち着いた声で言った。
「俺の名はダリウス。反乱軍の一員だ。そして、ここにいる他の者たちも同じだ」
エマは緊張した面持ちでダリウスを見つめた。彼の言葉には確固たる信念が感じられた。
「反乱軍……それって一体?」
エマが尋ねると、ダリウスは雪に覆われた地面に目を落とし、一瞬考え込むようにしてから語り始めた。
「今の魔法連盟は、もはや理想を見失っている。彼らは権力にしがみつき、魔法界を支配するためなら手段を選ばない。俺の故郷もその犠牲になった……」
その言葉にエマが驚いて目を見開く。ルイも眉を少し上げた。
「故郷?」
エマが思わず聞き返すと、ダリウスは視線を雪に落とした。
「俺の村は、魔法連盟が『反乱の兆候がある』と判断したことで壊滅させられた。実際には、ただ独自の魔法を研究していただけだったのに……。ある日、突然、空から攻撃魔法の雨が降り注ぎ、全てが燃え尽きた。家族も、友人も……誰も助からなかった」
彼の拳は震え、雪の中でわずかに音を立てた。
「魔法連盟は、力を持つ者が秩序を守るべきだと言いながら、自分たち以外の力を容赦なく排除してきた。俺たち反乱軍は、そんな連盟の暴走を止めるために立ち上がったんだ」
ダリウスの声には怒りと悲しみが入り混じっていた。
「俺たちは、ここ数年で少しずつ仲間を増やし、力を蓄えてきた。だが、まだ十分ではない。魔法連盟に対抗するには、もっと強大な力が必要だ。それが、古代魔法具なんだ」
「だから奪おうと?」
ルイが冷ややかに言うと、ダリウスは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
ダリウスは苦い顔で言葉を続けた。
「奪う……その言葉は確かに否定できない。だが、これは俺たちの未来のためなんだ」
すると、ルイが冷静な声で口を開いた。
「魔法連盟なら、トップのアレクサンドラ・ヴァレンスと戦ったことがある。つい先日の話だ。だが、大した魔力じゃなかった」
その言葉に、ダリウスを含む反乱軍のメンバーたちは驚きの表情を浮かべた。彼らにとって、ヴァレンスは魔法連盟の象徴的存在であり、容易には倒せない存在だと考えていたのだ。
しかし、リーナが険しい表情で口を開く。
「ヴァレンスは確かに強いが、彼女だけが脅威というわけではない。魔法連盟には、闘いを専門とした精鋭部隊がいる。その中でも『ガーディアンズ』と呼ばれる者たちは特に危険よ」
「ガーディアンズ……?」エマが小声で繰り返した。
リーナは頷きながら続けた。
「彼らはただの戦士じゃない。一人一人が魔法の使い手として超一流で、訓練と実戦を重ねてきた。もし反乱軍が魔法連盟本部を襲えば、必ず彼らが立ちはだかる。それが最大の壁よ」
ルイは一瞬考え込むように目を伏せ、やがてしっかりとリーナを見つめた。
「わかった。フロスト・ソルヴィールは渡せない。だが、協力はする。魔法連盟に闘いを挑むとき、必ず加勢する」
その言葉に、リーナは目を見開き驚きを隠せない様子だった。
「本当に……? あなたが?」
ルイは静かに頷いた。
「連盟のやり方には前々から腹が立っていたからな。権力を守るためなら弱者を切り捨てるような奴らだ」
リーナは一瞬迷った様子を見せたが、やがて深く息をついて頷いた。
「わかったわ……信じる。でも、もし裏切ったら、ただじゃ済まさないから」
ルイは薄く笑いながら言った。
「そんな心配はいらない。だが、ここで長々と話し続けるのは危険だ。あとは精霊を使って連絡してくれ」
そう言うと、ルイは杖を取り出した。
「行くぞ、エマ」
「うん」
エマが頷くと、ルイの魔法が発動し、二人の姿は淡い光と共にその場から消え去った。




