69. 自信
エマは手にしたフロスト・ソルヴィールを見つめてほっと息をついた。しかし、横で立ち尽くしていたルイが険しい顔で山の麓を見つめているのに気づく。
「ルイ、どうしたの?」
ルイは指を麓に向けた。
「見ろ、結界が消えたことで中にいた魔法生物たちが街の方へ降りていってる。しかも……音が聞こえるか?」
エマは耳を澄ました。遠くからかすかに、だが次第に大きくなる轟音が聞こえてくる。それは間違いなく雪崩の音だった。
「雪崩……!」
エマの顔が青ざめる。ルイはすぐに行動を起こそうと、杖を握りしめ、山を覆う巨大な結界を作り直そうとした。しかし、エマが慌ててその手を止めた。
「待って、ルイ!」
「なんだ?」
「山には希少な薬草が生えてるって言ってたから……この山全体を覆う結界を作り直したら、それも全部取れなくなっちゃうよ」
ルイは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに冷静にうなずいた。
「わかった。別の方法でなんとかする。エマは安全な場所へ――」
「ううん、危険生物たちは私がなんとかする! お願い、任せて!」
ルイは一瞬躊躇したが、エマの決意に満ちた目を見て、短く答えた。
「わかった。無理はするなよ」
そう言うと、ルイは雪崩の方向に向かって飛び立った。その姿はまるで雪山の中で光を放つ一筋の流星のようだった。
ルイは空中で杖を掲げ、力強く呪文を唱えた。
「アブラティオ!」
彼の杖から放たれた光が雪崩の進行方向に広がり、まるで時間を止めたかのように雪崩の勢いを完全に封じ込めた。そしてそのまま光が膨れ上がり、雪崩そのものが霧散して消滅していく。
一方、エマは山の麓に向かって駆け降りながら杖を握りしめた。そして立ち止まり、空へと杖を高く掲げる。
「パシフィスカ・シルウェストリス!」
エマの杖から柔らかな青い光が溢れ出し、それが山全体を包み込むように広がっていく。その光は凶暴化していた魔法生物たちの目を穏やかに染め、攻撃的だった動きが徐々におさまっていく。
山全体に静寂が戻り、エマはゆっくりと杖を下ろした。 その後、ルイはエマの方へと戻ってきた。
「さすがだな」
「うん。魔法生物たち、もう大丈夫みたい」
エマはそう答えながら、心の中に小さな自信が芽生えるのを感じた。 2人は目を合わせて笑い合い、共に山を後にした。




