65. グレイシャルム
三人がグレイシャルムの入口に到着した時、目の前にはまるで別世界のような光景が広がっていた。
全ての建物、道、樹木が氷でできており、透明感のある氷の壁や氷の橋がきらきらと輝いていた。その氷の街並みは、まるで幻想的な美しさを誇っているかのようだった。
空気は一層澄んでいて、冷たいはずなのに、まったく寒さを感じない。
「ここがグレイシャルム……? でも、なんでこんなに氷だらけなのに寒くないんだろう?」
エマは目を見張り、周りを見回しながら声を漏らした。
「この街にも魔法が使われている。温度を調整する魔法が全体に施されているから、氷の世界でも寒さを感じることはないんだ」とルイが説明する。
エマは驚きながらもその不思議な街並みに魅了され、氷でできた建物を触れてみた。その表面は冷たいものの、手に感じる温もりは不思議な感覚を与えていた。
街の中にはたくさんの人々が行き交っていた。防寒具を身に着けている者もいれば、普段着のまま歩く者もいる。どこか活気が感じられ、グレイシャルムの街は決して死んでいるわけではないと実感させられた。
「このあたりでは、氷に閉ざされた環境でしか育たない希少な薬草も採れるんだ。この景気の良さも、薬草を使った薬や特産品で商売が成り立っているからだよ」とリーナが説明する。
「へぇ、薬草まで……」
エマは驚きながら頷いた。
その時、エマはふと視線を遠くの方へと向けた。グレイシャルムの端に、巨大な山がそびえ立っている。その山の頂上は氷に覆われ、周囲にはまるで何かに囲まれるような結界が張られているように見えた。
「見て、あの山。結界が張られているみたい」
エマが指さすと、リーナもその方向を見つめた。
「あそこには、氷のドラゴンや凶暴な雪ウサギが多くいて、近づこうものなら命を落とすことになる。だから、あの山から降りてこられないように結界が張られているらしいんだ」とリーナは説明する。
「結界?」エマは目を見開き、さらに興味を引かれた。
リーナは頷きながら、少し感慨深げに言った。
「結界を壊そうとする魔法使いもいたらしいけど、誰にも壊せずに、あの結界はもう何百年もあのままらしい。昔からこの街の人たちは、あそこに近づかないようにしているんだ」
「そんなに長い間?」
エマは驚きつつも、山に秘められた力に心を惹かれるような感覚を覚えた。
「あんなに強力な結界が張られているのは、やはりそれなりの理由があるんだろう」
そう言うと、リーナはルイとエマの方を向いた。
「じゃあ、私は用があるからここでお別れだ。二人のおかげでここまで来れた。ありがとう」
「用事?」
エマは不安そうに聞く。
「うん、人を探してるんだ。あの結界の周りには、治療に使える薬草があるって言われていて、そこで薬草を探しているはずなんだ。じゃあ、またね」
リーナは少し寂しげに微笑んだ。
「そっか、気をつけてね」
「ありがとう。二人も気をつけて、グレイシャルムの街をしっかり楽しんで」
リーナは一度振り返り、足早に人混みの中に消えていった。リーナが去ったのを確認すると、ルイは話を切り出した。
「フロスト・ソルヴィールはおそらくあの結界の中だ」
「え!? でも、あの結界は何百年もあのままだし、それに仮に破壊できたとしても、すごく危険なんじゃ……」
「ああ。俺は一度あの山に行って結界を見てくる。エマは宿を探しておいてくれ」
「わかった。気をつけてね」




