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エマと魔法使いのレオン 〜魔力を与えられた少女〜  作者: 希羽
第三章 グレイシャルム

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57. 旅立ちの決意

 ボールパーティが開催された日からしばらくして、ルイとエマは、古代魔法具を探す旅に出ることを学長に報告するため、学長室の前に立っていた。しかし、エマはどこか落ち着かない様子でルイの隣に立っている。


 「どうした?」とルイが小声で尋ねると、エマは少し眉をひそめて答えた。


 「学長に会いに行くたびに、何かしら火事が起きてる気がするんだよね……」


 ルイは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに小さくため息をついて「気にするな。行くぞ」と言い、ドアのノブに手をかけた。


 ドアを開けると、想像を超えた光景が二人を迎えた。学長室の入口全体に何か巨大な影が覆いかぶさっており、部屋の中は全く見えない。それが突然動き始め、エマとルイの方に巨大な顔を向けた。


「えっ……?」


 エマは目を見開いて後ずさり、言葉を失った。目の前には、大きなドラゴンの顔があったのだ。鋭い瞳と光沢のある鱗、そして口から漏れる小さな炎。その圧倒的な存在感に、エマは足がすくむ。


 「動くな、エマ」とルイは冷静な声で言い、素早く杖を振った。すると、ドラゴンの体が一瞬で縮小し、数秒後には大きな猫くらいのサイズになっていた。


 「これでいい」とルイが言い終わると、ドラゴンの小さな体の後ろに学長の姿が現れた。


「おお、来たかね!」


 学長はいつもの温厚な笑みを浮かべながら手を叩いた。


「学長、ドラゴンを放し飼いにするのは危険です」とルイが静かに言う。


「すまんすまん。彼も少し自由にしてやりたくてね」


 学長はドラゴンの頭を撫でながら、どこか楽しそうだった。


 エマはまだ驚きが抜けない様子でルイに耳打ちした。


「いつも何かあるって言ったでしょ!」


 「気にするな」とルイが淡々と答え、学長に向き直った。


 「それで、やはり旅に出るのかね?」学長が問いかける。


 ルイは頷き、冷静な声で答えた。


「はい。古代魔法具を狙う者は多い。急がなければなりません」


 学長は少し頷きながら、彼らの決意を感じ取ったようだった。そして、静かに机の引き出しを開け、中から一本の杖を取り出した。長く滑らかな杖は、深い赤みを帯びた木目に古代の魔法文字が刻まれており、見る者を圧倒する神秘的な輝きを放っていた。


「ルイくん、これを君に託そう」


 学長の言葉に、ルイは目を見開いた。


「これは……学長の杖じゃないですか?」

「そうじゃ。長年、私の力を支えてきた大事な杖じゃ。ワシはもう年じゃ。これからの危険な旅にはついていけん。それに、信頼できる強い魔法使いにこそ相応しいと思っておった。この杖を扱えるのは、ルイくん以外にいないじゃろう」


 学長はそう言うと、杖をルイに向かって差し出した。ルイは少し躊躇したが、やがてその杖を受け取る。その重みにはただの道具以上の何かが宿っているようだった。


「……ありがとうございます。ですが、これは……」

「礼は不要じゃよ。君はワシにとって、息子のような存在。長年、共に過ごしながら、君がどれほど強く、優しく成長したかを見てきた。そして、この杖を託せるの君だけじゃと思っておる」


 ルイは一瞬、表情を緩めると、真剣な眼差しで頷いた。


「必ず、有効に使わせていただきます」


 「それから……」学長は少し真剣な声色で続けた。「もし仮に、誰かに『レクス・ソルヴィール』を奪われてしまったとき。手遅れでなければ、この杖と君の魔力で対抗できる可能性があるじゃろう」


 その言葉に、ルイの表情はさらに引き締まる。


「……心得ておきます」


 エマはそのやり取りをじっと見つめていた。学長の言葉に込められた思いが、ルイにとってどれだけ大きな意味を持つかが伝わってきたのだ。


 学長はルイに杖を渡した後、少し微笑みながらエマに視線を向けた。


「さて、君にも何かを持たせてやらねばな。危険な旅に出る君たちにとって、大切な道しるべになるものじゃ」


 そう言いながら、学長は部屋の隅にある棚から小さな包みを取り出した。それをそっと開くと、中から精巧に作られた手鏡が現れた。鏡面は淡い銀色に輝き、枠には魔法の文字が繊細に刻まれている。


「エマくん、これを持っていきなさい」


 エマはその美しい鏡を受け取り、驚きながら学長を見た。


「これは……?」


「その鏡はただの飾り物ではない。『アウリスの鏡』といって、古くから伝わる魔法具だ。危険な旅の中で行き詰まったときや、困難に直面したとき、心から願えば、この鏡が正しい道を示してくれるはずじゃ」


 エマはその言葉に目を見開いた。


「正しい道を……示してくれる?」


 学長はゆっくりと頷く。


「ただしじゃ、鏡が応えるのは真に純粋な願いに対してのみ。曇った心では何も映し出されない。それでも、君のように強く純粋な心を持つ者ならば、この鏡はきっと助けとなるじゃろう」


 エマは鏡を見つめながら、そっと頷いた。


「ありがとうございます、大切にします」


 学長は微笑みながら二人を見つめた。


「道中は険しいものになるじゃろうが、君たちならば乗り越えられると信じておる。決して諦めず、前を向き続けるのじゃよ」


 ルイとエマは揃って深く頭を下げた。学長室を出た二人は、それぞれ手にした杖と鏡の重みを胸に感じながら、旅立ちへの決意を新たにしていた。

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