55. ソルヴィール
「打撲が治ってる……ありがとう、ルイ」
エマは腹部をそっと押さえながら微笑み、感謝の言葉を口にした。
ルイは軽く頷くだけだったが、エマの痛みが和らいだことにほっとしている様子だった。少し沈黙が流れた後、エマが話を切り出した。
「それで……これからどうするつもりなの?」
その問いに、ルイは窓の外へ一瞬視線を向けた後、深く息をついた。そして、ゆっくりと口を開く。
「俺は……レクス・ソルヴィールを破壊しようと思っている」
エマの瞳が大きく見開かれる。驚きと困惑が入り混じった表情だった。
「破壊するって……どういうこと?」
ルイは冷静な声で続けた。
「すぐにじゃない。他の古代魔法具であるソルヴィールをすべて破壊した後にだ」
エマはさらに混乱しながら彼を見つめる。その反応を見たルイは、少し柔らかな声で説明を始めた。
「フェルマール家は、ソルヴィールを作った一族なんだ。俺の先祖たちは、魔法界と人間界が共存し、お互いを支え合って生きていく世界を目指していた。そのためにソルヴィールを作り出したんだ」
エマは言葉を失ったまま彼の話を聞き続ける。
「その一番最初のソルヴィールが、レクス・ソルヴィールだ。魔法界と人間界を一つにし、調和を保つためのものとして生み出された。他にも、人間界でエネルギーが絶えないように火の力に特化したソルヴィールを、水がなくならないように水の力に特化したソルヴィールをと、新しいソルヴィールを次々に作り出していった。ただ……」
ルイの言葉が一瞬途切れる。その目には苦しみが宿っていた。
「魔法界で誰もが持っている普通のソルヴィールと違い、それらの古代魔法具は膨大な魔力で作られている。扱う人によっては災いをもたらす存在となってしまった。この世界の脅威だ。それが俺の一族の罪でもある。だから、俺はすべての古代魔法具を破壊したいと考えているんだ」
エマは、その話を聞くうちに胸の奥が熱くなるのを感じた。彼の決意は痛いほど伝わってきたが、それでも納得できなかった。
「そんなのおかしいよ!」
エマは声を張り上げ、ルイをじっと見つめた。
「そんなに素晴らしい考えのもとで作られたものなのに! 確かに危険かもしれないけど、それを破壊するなんて……」
ルイはエマの強い反論にも動じることなく、彼女の言葉を受け止めていた。
「古代魔法具を集めるのは賛成。でも、それをどうするかは、全部集めてから考えようよ」
エマの声は少し震えていたが、その目には強い意志が宿っていた。
「それに、それはあなたの一族の大事な形見でもあるでしょ? 簡単に壊していいものじゃないよ!」
ルイはその言葉に少し驚いたように目を細めたが、何も言わずエマを見つめ返した。その瞳の奥で、何かが揺らいでいるのがわかる。そして、静かに口を開いた。
「そうだな。まだ時間はある」
その言葉に、エマはほっとしたように微笑んだが、ルイの表情は依然として真剣だった。
「まずは、他の古代魔法具の場所を調べる必要がある。父が残した文献と、レクス・ソルヴィールの力を使えば、大まかな在り処がわかるはずだ。ただ……少し時間がかかるかもしれない」
「文献とレクス・ソルヴィール……?」
エマは首を傾げながら尋ねる。
「父は、生前に古代魔法具の可能性や用途について膨大な研究をしていた。場所や特徴についても記録が残されている。ただ、それだけでは不完全だ。レクス・ソルヴィールがあれば、古代魔法具同士がわずかに放つ共鳴を感じ取れる。それを頼りに特定していくつもりだ」
ルイはそう言いながら、机の上に置かれた小さな木箱に視線を向けた。
「インフィナイトの箱に、父の文献を隠してある。少しずつ正確な位置を突き止めていくさ」
エマはその説明に頷きつつ、「私も力になれるかな?」と尋ねた。
ルイは真剣な顔つきでエマを見つめた。
「エマには、魔法をさらに鍛えてほしい」
「魔法を?」
「これから先、古代魔法具を探す旅は危険だ。特に、俺たち以外にもそれを狙う者たちがいる。戦闘になる可能性も高い。エマが自分の身を守れるように、もっと魔法を磨いてほしいんだ」
ルイの言葉に、エマはしばらく考え込むような顔をしていたが、やがて真剣な表情で頷いた。
「わかった。私も強くなるよ」
「頼む。俺もできる限りのことをする」
【御礼】
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