54. 魔法使いのレオン
学長や教授たちがアーク・カレッジの修復作業を魔法で行う中、エマとルイはルイの部屋に戻っていた。
ルイは、エマの腹部に残る軽い打撲を治療するために、静かに手をかざして魔力を込めている。エマはその温かな感触に、心なしか緊張が和らいでいくのを感じた。
「ルイ、どこもケガしてないよね?」
エマが彼を見上げて尋ねると、ルイは淡々と「ああ。大丈夫だ」と答える。短い返事だったが、その声には彼の落ち着きと安心感が含まれていた。
部屋の片隅では、クロがベッドの上で丸くなって寝息を立てている。その姿に、エマは微笑みを浮かべながらルイに話しかけた。
「ねえ、ルイ……じゃなくて、レオンなの?」
ルイは一瞬手を止め、エマの顔をじっと見つめた後、軽く息をついて答えた。
「どちらも正しい。ルイはミドルネームだからな」
エマは少し戸惑った様子だったが、そのまま彼を見つめ続けた。その視線を感じたルイは、ふと窓の外に目を向け、静かに口を開いた。
「俺のことをちゃんと話しておこうと思う。隠しているつもりはなかったが、話すタイミングがなかったからな」
エマは彼の言葉に耳を傾けながら、彼が次に何を言うのかをじっと待った。
「俺は、父が人間との間に作った隠し子なんだ」とルイは静かに語り始めた。
その言葉にエマは目を見開いたが、口を挟むことなく黙って聞き続ける。ルイは続けた。
「ただ、実際には父と義母は、形だけの夫婦関係を続けていただけだった。だから、父と俺の母親との関係を義母も認めていた。むしろ、俺が隠し子だったからこそ、フェルマール家が滅びた時に備えてレクス・ソルヴィールを俺に託したんだ」
彼の声はどこか淡々としていたが、その中に潜む重みがエマにも伝わってくる。
「まさか本当にフェルマール家が襲われるとは思っていなかったが……。結果的に、レクス・ソルヴィールは闇の魔法使いたちの手に渡らなかった」
ルイの視線はどこか遠くを見つめていた。
エマは彼の言葉を消化するようにしばらく沈黙していたが、やがてそっと口を開いた。
「ルイ……それを全部一人で抱えてきたの?」
彼女の声はかすかに震えていた。彼の重い過去を知った今、彼がどれほど孤独であったかを思い知ったのだ。
しかし、ルイは静かに首を横に振り、優しく答えた。
「一人じゃない。あの日、お前と出会った後すぐに、俺はアルカナ魔法学校の学長に会いに来たんだ」
エマは驚いたように彼を見つめる。ルイは続ける。
「学長には全てを話し、ずっと指導してもらってきた。レクス・ソルヴィールを制御するのも最初は苦労したが、学長のおかげでここまで制御できるようになったんだ」
エマはふっと息をつき、少しだけ安堵したように微笑む。
「そうなんだ……。一人じゃなくてよかった」
彼女の声には優しさと安堵が混じっていた。ルイはその言葉に静かに頷き、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。
「でも、これからはエマにも力を借りるかもしれない」
その言葉にエマは驚いたようだったが、すぐに笑みを浮かべて答えた。
「もちろんだよ、ルイ」
二人が微笑む中、魔法精霊のヴィラがいつもの可愛らしい姿で二人の周りをふわふわと駆け回っていた。




