53. 真実
静寂が戻った屋上で、ルイはすぐにエマの肩を掴み、真剣な表情で問いかけた。
「ケガを見せてみろ」
その言葉に、エマは一瞬戸惑ったが、彼の真剣な眼差しに気圧されるように頷いた。ルイはそっと彼女のブラウスの裾を持ち上げ、腹部を確認した。
そこには軽い打撲の痕が残っているだけで、致命的な傷は見当たらなかった。
「……大丈夫だ」
ルイは安堵の息をつきながら、エマを見つめた。胸の中で張り詰めていたものが、ようやくほどけていく。
エマは少し照れくさそうに微笑み、「たぶん、誕生日にみんなからもらったシールドパウダーをローブにかけてたからかな」と説明した。
ルイはその言葉を聞くと、エマをぎゅっと抱きしめた。彼の腕の力強さに、エマは驚きながらも安心感を覚えた。
「本当に……よかった」
ルイの声はかすかに震えていた。それは彼がどれほどエマを守りたかったかを物語っていた。
その時、重厚な足音が屋上に響き、アルカナ魔法学校の学長が現れた。威厳に満ちた彼の姿を見て、ルイもエマも少し背筋を正した。
学長は穏やかな表情で二人を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「見事じゃったよ、二人とも」
エマが困惑した顔を浮かべる中、学長は続けた。
「魔法連盟がこの学校にいる間、何が起きるかわからなかった。エマくんが襲われ、もしルイくんが暴走したら、取り返しのつかないことになると思っておった。だから、エマくんを短期留学に行かせることで、リスクを減らそうと考えたのじゃ」
学長は深いため息をつき、続けた。
「魔法連盟の三人がレクス・ソルヴィールを狙っておることを知っておったが、まさかここまで強硬手段を取るとは……」
ルイは学長の話を聞きながらも、ふと屋上に倒れている教授の姿に目を向けた。エマもそれに気づき、ルイに問いかける。
「そこに倒れている教授は……どういうこと?」
ルイは一瞬躊躇したが、静かに説明を始めた。
「俺が部屋から出て学長に会いに行っていた間に、学長が俺を守るために動いてくれた。教授が身代わりとして俺になりすまして戻ってきたんだ」
「そうじゃ。しかし、心配ない。すぐに治療する。そしてエマくん、君はルイくんの暴走を見事に止めた。どうやらワシは見誤っていたようじゃのう」
エマとルイは複雑な思いを抱えながらも、学長の言葉を受け止めた。
屋上に残る緊張感を切り裂くように、アレクサンドラが声を荒げた。
「こんなことをしてタダで済むと思っているの!?」
彼女の鋭い視線がルイを貫く。だが、ルイは動じることなく、真剣な表情で言い返した。
「それはこっちのセリフだ」
彼の声は静かだが、その一言には圧倒的な威圧感が込められていた。
ルイは自分のソルヴィールに視線を向けながら、続けた。
「お前らが探しているレクス・ソルヴィール……それは、これだ」
そう言うと、ルイは自分のソルヴィールに杖を向けた。その瞬間、ソルヴィールが黄金色に輝き始め、周囲の空気が震える。そして、ルイの胸元の宝石がゆっくりと変化し始めた。それは、今までの姿を脱ぎ捨てるように本来の姿を現す――古代魔法具「レクス・ソルヴィール」。
アレクサンドラの目が釘付けになる。
「それを今すぐ渡しなさい!」
彼女は怒りを抑えきれず、命令するように叫んだ。しかし、ルイはアレクサンドラに一歩近づき、静かに言った。
「俺の名は、レオン・ルイ・イヴァン・フェルマール」
その名を聞いた瞬間、アレクサンドラ、リチャード、セリアの表情が凍りついた。ルイはさらに続ける。
「俺にはレクス・ソルヴィールを守る使命がある」
セリアが驚きのあまり呟いた。
「フェルマール家は壊滅したはず……!」
ルイの目が鋭く光る。
「その通りだ。俺は唯一の生き残りであり、レクス・ソルヴィールの正統な継承者だ。そして、この魔法具はフェルマール家の人間でなければ扱えない」
彼の断言に、魔法連盟の三人は言葉を失った。アレクサンドラは悔しそうに唇を噛み締めたが、杖を下ろすしかなかった。
リチャードが小声で言った。
「撤退しよう、ここでは分が悪い」
アレクサンドラは怒りを滲ませた表情でルイを睨みつけながらも、結局引き下がることを選んだ。セリアとリチャードを従え、彼女たちは魔法陣を展開し、その場から姿を消した。
静まり返った屋上で、エマは驚きを隠せずにルイを見つめていた。
「ルイ……?」
ルイはエマを一瞥しただけで黙っていた。その時、学長が重々しい足取りで二人に近づいてきた。
「これ以上は隠せなかったか」
学長のその言葉には、どこか諦めの色が含まれていた。
「ルイくん、ワシは君を守るつもりでここまで動いてきたが、やつらがこれで諦めるとは思えん」
学長の厳しい声が響き、ルイは静かに頷いた。
「分かっています。だから、俺が全て終わらせます」
エマはルイの横顔を見つめ、彼の覚悟の重さを感じながらも、胸の奥に湧き上がる不安を抑えきれなかった。




