5. 初めての魔法
「それで、入学試験っていつ何をするの?」
「試験は半年後。筆記試験、実技試験、それから面接がある。ただ、エマの場合は推薦状があるから面接は免除だ」
「じゃあ半年間、筆記と実技の対策を頑張らなきゃ」
「対策しなくても入学はできる。それに、筆記はおそらく大丈夫だ。エマにはこれまで読んできた魔法書の知識がある」
「何もしなかったら入学後に落ちこぼれちゃうじゃない!」
「わかった。じゃあ明日から主に実技を鍛えるぞ。学校がない日は教えてやるよ」
「本当? ありがとう!」
こうして、エマはルイの指導のもと、アルカナ魔法学校への入学試験の準備を始めることとなった――。
エマがアルカナ魔法学校への入学を決意した翌日、ルイは朝からアンティークな小さい木箱を持ってエマの部屋へとやってきた。
「ルイ、おはよう! 何その木箱? 魔法道具入れ?」
「まあそんな感じだ。とりあえずこの箱に入れ」
そう言って、ルイは木箱を床の上に置き、蓋を開け、木箱の中に手を入れた。すると、ルイはそのまま木箱の中に吸い取られるかのように入って行った。
部屋に一人取り残されたエマは唖然としていたが、ルイと同じように木箱に手を入れ、中へと入って行った。
エマが叫びながら到着した先は、数多くの魔法書や魔法道具が並べられたとても広い部屋だった。魔法書を読んだり魔法道具を試せそうなテーブルとイスや、呪文を練習できそうなスペースまである。
「何ここ! すごい! これ全部ルイの?」
「ああ。エマに貸していた魔法書は全部ここから持ってきた。魔法道具についての本は渡してなかったから勉強不足だろ? ここで実際にあるモノを使ってみるといい。それと、大前提として、人間界で魔法を使うのにもルールがある。エマはまだ人間界で魔法を使うべぎじゃない。ただ、この空間なら禁呪以外は好きに魔法を使って大丈夫だ。異空間だからな」
「あんな小さな箱の中にこんな広い部屋があるなんて信じられない! ルイ、ありがとう!」
エマが部屋の中を見渡していると、ルイは自分のポケットの中から杖を取り出し、エマに差し出した。
「いつか杖もあげるって約束したからな」
「魔法の杖!」
「これは魔法使いの子供が魔法の練習をする時に使う初心者用の杖だ。エマに合った杖は、魔力がもう少し強くなってきてから、魔法界で探しに行こう」
「初心者用でも嬉しい、ありがとう!」
エマは約束のことは覚えていなかったが、それよりも早く魔法を使ってみたい気持ちでいっぱいだった。
「浮遊魔法を練習してみるか? 基礎的だが上達すれば応用も効く」
「そうだね、あのペンを狙ってみようかな」
「まずは軽いものからだな」
エマはテーブルの上に置いてあった羽根ペンの方に杖を向け、呪文を唱えた。
「ライゼン!」
すると、羽根ペンが少しずつ上に傾き始め、徐々に宙へと浮いていった。しかしながら、ペンはすぐにテーブルの上へと落ちてしまった。
「魔力コントロールがまだまだだな。ペンを宙に浮かせて自由にコントロールできるようになれば基礎として十分だ」
「難しいね……でも頑張ってみる!」
初めての魔法は上手くいかず少し落ち込んだ表情を見せたエマであったが、その後も練習を続けた。
一時間ほど練習をしたところで、羽根ペンをかなり浮かせることができるようになった。
「魔力を消費しすぎだな。少し休憩しよう」
「無駄に魔力を使ってるってことだよね? 確かに疲れてきた……」
そう言って、エマは羽根ペンの置いてあるテーブルのイスに座ると、ルイは奥の方にある棚に向けて杖を振った。
すると、奥の方からガチャガチャと音がした後、コップが二つテーブルの方へと飛んできた。エマが、コップの中を覗き込むと紅茶が入っていた。
「本当に魔法で家事やってたんだね」
「浮遊魔法の応用で家事はほとんどできるからな」
「便利すぎる……あ、そういえば、筆記試験はどんな問題がでるの?」
ルイは、今度はエマの目の前の空間に円を描くように杖を振った。そして、エマの目の前に、たくさんの文字が浮かび始めた。
「これが去年の筆記試験の問題の一部だ」
「これ……魔法書で読んだことがある内容が多いかも」
「ああ、だから問題無い。心配するな」
「ありがとう、ルイ」
こうして魔法学校入学に向けた特訓の日々が、本格的にスタートしたのだった――。