49. 碧色のペンダント
翌朝、エマは薄明りが差し込む中、ルイの部屋で目を覚ました。
ふかふかのベッドに横たわっていたが、昨夜の出来事が頭をよぎり、すぐに起き上がる。ふと視線を向けると、ソファでルイが眠っている姿が目に入った。疲れが見える顔だが、穏やかに眠っている。
エマはそっと立ち上がり、彼を起こさないように歩み寄る。すると、ルイの首元にかかっているペンダントが目に留まった。これまであまり気にしたことがなかったが、間近で見るとその美しさに目を奪われる。
それは、碧色の宝石を中心にしたペンダントだった。宝石の表面には銀色の光が微かに揺らめき、まるで波打つ水面のように幻想的だ。その光が静かに部屋の中に反射し、神秘的な雰囲気を漂わせている。
「これがルイのソルヴィール……」
エマは思わず呟いた。ソルヴィールが持つ特別な力を思い出しながら、その美しさに息を飲む。彼女の持つソルヴィールとは全く異なる力を秘めているように感じた。
エマが見入っていると、ルイが目を覚ました。彼はゆっくりと体を起こし、エマに気づくと、少し微笑む。
「どうした? そんなにじっと見つめて」
エマは少し慌てながら、目を逸らした。
「ごめん、ただ……その、ソルヴィールがすごく綺麗で」
ルイは首元に手を当て、ペンダントを軽く指で触れながら言った。
「これも家族から代々受け継がれてきたものだ。俺にとってはただの道具だが、見る人にはそう見えるのかもな」
彼の言葉は軽い調子だったが、その瞳の奥にはどこか複雑な感情が宿っていた。
しばらくして、ルイは寝ぼけた様子を振り払うように顔を洗い、着替えを始めた。準備を終えると、彼はエマに向き直り、少し真剣な表情で言った。
「これから少し出かける。用事を片付けたらすぐに戻るから、それまで絶対にこの部屋から外に出るな」
「どこに行くの?」エマが尋ねたが、ルイは軽く首を振った。
「大したことじゃない。ただ、外はまだ安全とは言えない状況だ。ここでおとなしく待っててくれ」
彼の言葉には切迫感があり、エマは黙って頷いた。
「分かった。気をつけてね」
ルイは短く頷くと、ソルヴィールをシャツの下に隠し、部屋を出て行った。扉が閉まる音が響き、エマはその場に立ち尽くした。
しばらくしても、ルイは戻ってこなかった。エマは少し心配になりながらも、彼の言葉を守って部屋の中で待っていた。
すると、不意にドアがノックされる音が響いた。
「ルイくん、いるの?」
ドアの向こうから聞こえたのはリアナの声だった。エマは慌てて身を隠した。しかし、すぐに廊下の方からルイの声が聞こえてきた。
「何の用だ?」
「話があるの。ここじゃ話せないから、屋上まで来て」
エマはドアの隙間からそっと様子をうかがった。ルイはしばらくリアナをじっと見つめた後、短く頷き、二人は廊下の向こうへと消えていった。
時間が経つにつれ、エマの不安は膨らんでいった。やがて静寂を破るように、屋上の方向から激しい音が響いてきた。
ドンッ! ガガガッ!
建物全体が揺れる。まるで地震が起きたかのように、棚に置かれていた本や小物が床に落ちていく。エマは驚いて立ち上がり、窓に駆け寄ったが、屋上の様子は見えない。
「一体、何が起きてるの……?」
不安とともに胸が高鳴る中、さらに大きな轟音が響き渡り、エマは思わず耳をふさいだ。アーク・カレッジ全体が激しい魔法の衝撃を受けているかのようだった。
「ルイ……!」
エマの心には、彼が危険に巻き込まれているのではないかという恐れが広がっていった。
エマは揺れる部屋の中で、再び轟音が響くたびに息を呑んだ。屋上から聞こえる音は、まるで誰かが激しい戦いを繰り広げているかのようだった。
「ルイ、大丈夫なの……?」
彼女は不安を押さえきれず、思わずドアの方へと足を進めた。しかし、ルイの「部屋から出るな」という言葉が脳裏に蘇る。立ち止まったエマは、手に汗を握りながらも、外の様子を伺おうとする気持ちと、自分ができることが何もない無力感との間で揺れていた。
エマは揺れる建物の中で、耳をふさいだまま震えていた。しかし、次第に屋上から聞こえる轟音が収まり、代わりに風が切り裂かれるような音や、何かがぶつかる鈍い音が断続的に聞こえてきた。
「……ルイが危ないのかもしれない」
彼の「部屋から出るな」という言葉が頭をよぎる。それでも、ただ待つことしかできない自分に耐えられなくなったエマは意を決して立ち上がった。
「行かなきゃ……」
エマはソルヴィールを握り締め、部屋を出た。廊下は静まり返っていたが、遠くから聞こえる戦闘音に向かって進むたび、心臓が早鐘を打つように鳴り響いていた。
階段を駆け上がると、やがて屋上へ続く扉が見えてきた。エマは一瞬立ち止まり、息を整える。
「大丈夫、私にもできることがあるはず……」




