48. 迫る危機
エマはノアが作り出した水の船でアルカナ魔法学校へ到着した。
風のように軽快な移動だったが、着くころには日が落ち始めていた。ノアは船を消し去り、エマに向かって笑顔で言う。
「ここで大丈夫だよな? アナには俺から事情を説明しておくから、安心して」
エマはノアに感謝を告げると、見送るようにその背中を見つめた。ノアは再び海に向かい、魔法を使ってマーレディア・アカデミーへ戻っていく。
振り返ったエマはすぐにアーク・カレッジへと足を向けた。周囲には学生たちがちらほら見られ、魔法連盟の特別授業について熱心に語り合っている声が聞こえてきた。
「やっぱり魔法連盟の授業はすごいよな!」
「次の授業は絶対参加するべきだよ!」
エマはその声を耳にしながら、目的地を急ぐ。
やがてルイの部屋の前にたどり着き、ノックをすると、扉の向こうからルイが顔を出した。
「エマ?」
彼は一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに彼女の腕を引っ張り、部屋の中へと引き入れた。
「なぜ戻ってきた?」
ルイの声には焦りがにじんでいる。
「ここに来るまでに誰かに見られたか? すぐに魔力を消せ!」
エマは驚きつつも、ルイの言葉に従い、ソルヴィールを首から外してポケットにしまい込んだ。もともと魔力を持たないエマの場合、ソルヴィールを首から外すだけで完全に魔力を消すことができるのだ。
「ルイ、何が起きてるの?」
エマが尋ねると、ルイは深い溜息をつきながら窓の外を警戒するように見やった。
「魔法連盟が動き出した。奴らはレクス・ソルヴィールを見つけるため、特別授業を口実にして学内を探っている。だが、それだけじゃない。学生たちを襲う可能性だってある。用心しろ、エマ」
エマは緊張しながらもうなずいた。二人が話していると、部屋の扉が急にノックされた。その音にルイは一瞬固まり、すぐにエマに目配せする。
「急いで隠れろ」
ルイはエマを部屋の隅にある仕切りの裏に押し込み、自身は扉を開けた。
そこに立っていたのは、アレクサンドラとアーク・カレッジのヴィクター・クロウフォードだった。アレクサンドラの鋭い目が部屋の中を見回す。
「今夜、あなたとヴィクターに特別授業を行いたいと思って」
アレクサンドラが冷静な口調で告げたが、ルイは眉をひそめ、すぐに答える。
「アーク・カレッジの学生はアーク・カレッジの教授からしか授業を受けない。それがルールだ」
彼の声には断固とした調子があった。
「ルール、ね」
アレクサンドラは目を細めた。
「でも、この授業は魔法連盟からの指示よ。それを拒むつもり?」
ルイは冷静に答えた。
「教授会に正式な許可が下りていない授業は受けられない。それがアーク・カレッジのルールだ。申し訳ないが、今夜は遠慮させてもらう」
ヴィクターは少し困惑した表情を浮かべながらも口を挟まない。アレクサンドラはしばらくルイを見つめたが、やがて肩をすくめて言った。
「分かったわ。でも、この話はこれで終わりではない」
彼女はヴィクターを促して部屋を後にした。扉が閉まると、ルイは息をつき、隠れていたエマに合図を送った。
「もう出てきていい」
エマは仕切りの後ろから姿を現し、不安そうに尋ねる。
「ルイも危ないんじゃない……?」
ルイは険しい表情で窓の外を見ながら言った。
「俺は大丈夫だ。だかエマを人質にでも取られたら厄介だ。今日はこの部屋から出るな。いいな?」
エマは緊張を感じながらも、ルイの言葉に小さくうなずいた。




