40. 旅立ち
「エマ、頑張ってきてね!」
「帰ってきたら、どんなだったか教えてね!」
今日はいよいよエマがマーレディア・アカデミーへ旅立つ日。ルミナス・カレッジの友人たちに見送られた後、エマは校内を流れる川沿いに停泊している船へと向かった。
その途中、エマはレガリア・カレッジのカイ・ファルディオンに声をかけられた。
「エマ! いよいよ行くんだね!」
「カイ! うん、頑張ってくるね!」
「マーレディア・アカデミーまでの道のり、くれぐれも気を付けてな。水中では何が起きるかわからない」
「水中?」
カイの言葉にエマは驚いた。
「そうだ。マーレディア・アカデミーは、魔法界の中で唯一水中にある学校だ。危険な魔法生物が住んでいる場所でもあるから、気をつけろ」
「えっ……マーレディア・アカデミーって水中にあるの!?」
「聞いてなかったのか? でも、きっと大丈夫だ」
エマは言われて初めてその事実を知り、驚きを隠せないでいた。
「全然知らなかった……けど、行くからにはしっかり頑張ってくるよ!」
「……それから、短期留学中の1ヶ月間は、絶対に戻ってこない方がいい」
「え、どうして?」
「もうすぐアレクサンドラ・ヴァレンスが来るだろう? 魔法連盟のトップだ。彼女、あまり人間が好きじゃないって噂もある。それに、いくらアルカナ魔法学校でも、魔法連盟の現役トップが学校に来るのは何か不自然だ。嫌な予感がする」
「アレクサンドラ・ヴァレンスって……あの噂の魔法使いか……」
「ああ。あまり関わらない方がいい」
「……心配してくれてありがとう、カイ。短期留学中は学業に集中するから大丈夫だよ。何かあればすぐに報告するし!」
カイはしばらくエマを見つめ、頷いた。
「わかった。何かあったらすぐに連絡してくれ。気を付けろよ」
「うん、ありがとう! じゃあ、行ってきます!」
カイに別れを告げた後、エマはマーレディア・アカデミー行きの船にたどり着いた。
川沿いに停泊していた船は、ひと目でただの船ではないとわかる不思議な存在感を放っていた。エマがゆっくりとタラップを登ると、船内には案内人のスタッフが乗っていた。
「こんにちは、エマ・ブラウンさん。これよりマーレディア・アカデミーへご案内いたします。どうぞご着席ください」
エマが席につくと、船の外側が淡い青緑色の光に包まれる。その瞬間、エマはわずかな揺れを感じた。そして――船はゆっくりと川の流れに逆らうように動き出した。
「おお……」
エマは思わず小さな声を漏らした。川の水が輝き出し、船が水中へと沈んでいくのが見える。普通の船なら沈没してしまうところだが、この船は全く違っていた。水面を突き抜けていく瞬間、まるで透明な膜を通り抜けるような感覚があり、船内は完全に乾いていた。
船窓の外には新しい世界が広がっていた。水中を漂う大小さまざまな魔法生物が、光をまとった幻想的な姿で通り過ぎていく。
「すごい……」
エマは窓の外を見つめたまま呟いた。大きな魚のような魔法生物が船の近くを横切ると、窓越しにエマと目が合った気がした。しかし、その生物は虹色の光を放ちながら水中の闇へとすぐに消えていった。
「マーレディア・アカデミーまではあと1時間ほどかかります。しばらくおくつろぎください」
船は徐々にスピードを上げ、深海の闇を突き進む。やがて遠くに、光の柱がいくつも立ち並ぶ風景が見えてきた。その中心には巨大なドーム状の建物が浮かび上がっている。
「あれが……マーレディア・アカデミー?」
エマは息を呑んだ。学校の外壁は透き通った水晶のようで、そこから漏れる光が深海を照らしている。




