4. 魔法学校への推薦状
ルイとの出会いから8年の月日が流れ、エマは11歳の少女に成長していた。
明るい性格がその外見に現れ、大きなヘーゼル色の瞳は好奇心に満ち溢れている。ロングの栗色の髪はややくせっ毛で、風に揺れるとふわりと跳ねる。
ルイはと言うと、14歳になり、エマよりもずっと背が高く、どこから見ても均整の取れた体に成長していた。長いまつげに、瞳は深い碧色、濃い青色の髪は少しウェーブがかかっている。
ルイはボーディングスクール――全寮制の学校――に通っているらしく、普段は家にいない。どうやら今日は帰ってくるらしく、ルイに会えるのを楽しみにしていたエマは、急いで学校から帰宅した。
「ただいまー! ルイ帰ってるー?」
エマがリビングを開けると、そこにはルイが立っていた。
「ルイ、おかえり! また身長伸びたんじゃない? モデルでもやればいいのに!」
「俺は商品じゃない」
「もお! 褒めてるのに!」
実際、ルイは街中でモデルにスカウトされたことがある。エマとルイがロンドン中心部のオックスフォード・ストリートで買い物をしていた際に声をかけられたのだ。
エマがダイニングテーブルの方を見ると、そこには何やら真剣な顔でこちらを見つめている両親がイスに座っていた。エマの母親エミリーは、「エマ、ちょっといい?」と、何やら話があるようで、エマも一緒にダイニングテーブルの席についた。
「どうしたの?」
エマが質問をしても、両親は黙ったままだった。そして、「俺から話そう」と言い、ルイはポケットから一通の封筒を取り出し、エマに渡した。
エマが封筒を開けると、そこには一通の手紙と、白くて丸い天然石のようなネックレスが入っていた。手紙には、エマを魔法学校へ推薦する内容が記されていた。
エマは、それを読むなり、ルイの方を疑うような目で見つめた。
「なにこれ?」
「アルカナ魔法学校への推薦状のコピーだ。原本はもう提出しておいた」
「ええ!?」
「心配ない。実際に入学試験を受けるかどうかはエマ次第だ。ただ、推薦状があればほぼ間違いなく合格する」
「いやいやいや、話についていけないんだけど?」
「ルイくんは魔法が使えるのよ」
「お母さんまで何言ってるの!?」
「数年前、家に帰ったら、家中の物が宙に浮いててね、ルイくんいつも魔法で家中を片付けたり料理してくれてたみたいなの」
エマは一度大きく深呼吸をしてから、ルイに問いかけた。
「つまり、ルイは魔法使いで、私を魔法学校に誘ってくれてるってことだよね」
「そうだ」
「でも魔法なんて私使えないし、卒業後はどうなるの?」
エマはロンドンの小学校に通う、勉強もスポーツも得意な優秀な生徒だ。私立中学校への受験も考えている。
「魔法学校を出て、そのまま魔法の世界で活躍する者もいれば、人間界に溶け込んで暮らす者もいる。そのあたりのことは心配しなくていい。大事なのは、エマが何を学びたいかだ」
「もしかして、ずっと貸してくれてた魔法書は――」
「本物だ」
「でも、呪文を唱えても何も起きなかったし」
「当たり前だ。魔力も無ければ、杖もない」
(魔法が使いないのに魔法学校行って私何するの!?)
すると、ルイはポケットから何かを取り出した――魔法の杖だ。
「ライゼン」
ルイがそう唱えると、エマの目の前に置いてあったネックレスが宙へと浮かび、頭の上をくぐってエマの首へとぶら下がった。そして、先ほどまで白色だったネックレスの石は強く輝き、黒色へと変色した。
「黒か」
「え、何!?」
エマが呆気にとられている横で、ルイは淡々と話し続けた。
「そのネックレスを身につければ人間も魔法を使えるようになる。石が魔力の源だ。初めは魔力が少ないが、鍛錬で増やすことができる。石の色は身につけている者の色そのもの。つまり、色によって才能や素質のある魔法がわかる。鍛えることで色が変わることもあるが、黒は、簡単に言えばジェネラリストだ――」
「何の魔法にも素質が無いってことじゃ……」
エマの父親トーマスも、ルイの正体をエミリーから聞いていたため、特に驚いた様子は無い。トーマスは、「エマ、どうしたい?」と問いかけた。
エマはまだ状況を理解しきれていない様子であったが、すぐにその目は変わり、決意の固い表情をした。ネックレスをにぎりしめ、少し震える声で答えた。
「……私、行きたい。魔法学校に」
両親の顔には少し驚きの表情が浮かんだが、すぐに微笑みへと変わった。そして、エマはネックレスを見つめながら、これから始まる魔法の世界への旅に胸を高鳴らせていた。