37. リアナ・ヴェイル
アーク・カレッジの学長室を出たエマは、再びエレベーターへ向かおうと足を進めていた。アーク・カレッジの荘厳な廊下は静寂に包まれ、窓から見える広大な風景がどこか非現実的だった。
ふと、背後から声がかかった。
「あなた……噂の人間の学生ね」
エマが振り返ると、そこにはリアナ・ヴェイルが立っていた。六年生の彼女は背が高く、長い黒髪と輝く瞳が印象的な女性で、その立ち姿には威圧感すら漂っている。
「えっと……はい、そうです」
少し戸惑いながらもエマが答えると、リアナの視線がじっとエマを見つめた。
「それと……コルム・クッキーをルイくんにあげたのはあなたね」
突然の指摘に、エマは驚いて目を見開いた。
「えっ!? ど、どうしてわかるんですか?」
リアナは薄く微笑みながら言った。
「コルム・クッキーには微弱な魔力が込められているでしょ? あれはあなたの魔力だわ。上手にできてたわね」
「そ、そうですか……ありがとうございます……」
リアナの視線が鋭くなる。
「でも、ルイくんにそれを贈ったということは……よっぽど好きなのね?」
「ち、ちがいます!」
エマは慌てて首を振った。
「ルイは幼馴染で、ただのお礼として……!」
リアナは少し考えるように首を傾けた後、肩をすくめた。
「あら、そうなの? まあいいわ。でも、ルイくんってすごくカッコいいじゃない。それに学生の中では間違いなく一番強い魔法使いよ。普段は魔力を抑えているようにみえるけど、その底知れない力……どこで鍛えたのかしらね?」
エマは一瞬戸惑ったが、少し考えて答えた。
「ルイは……小さい頃からずっと努力してきたんだと思います。一人でずっと……」
リアナはその答えに小さくうなずいた。
「そう……ルイくんに私が直接聞いても、何も教えてくれないのよ。せっかく頑張ってアーク・カレッジに入ったのに、片思いみたいで悲しいわ」
「そうなんですね……」
エマは何と答えていいかわからず、視線を落とした。
リアナはそんなエマの様子を観察するように目を細めると、優雅に微笑んだ。
「でも、まだ諦めるつもりはないわ。あなた、ライバルかもしれないわね。今度お茶でもしましょう。話したいこと、たくさんあるから」
そう言って、リアナは静かにその場を去っていった。
エマはその後ろ姿を見送りながら、思わず心の中で叫んだ。
(絶対に勘違いされてる……! これ、全部ソフィアのせいだよ……)
エレベーターに乗り込むと、エマは深いため息をつきながら、リアナの言葉を反芻していた。
「ルイが……一番強い魔法使い……か……」




