36. 学長室
アーク・カレッジの案内人に連れられ、エマはついに学長室の前に立った。重厚な金属製の扉が目の前にそびえ立っている。
「では、これで失礼いたします」と案内人が一礼して去っていった後、エマは深呼吸をして扉に手をかけた。
扉を押し開けると、目の前に広がったのは予想外の光景だった。
「え……!?」
エマは言葉を失った。学長室全体が赤々と燃え上がり、炎が空中で揺らめいている。
部屋の奥から、杖が突き出されるのが見えた。その瞬間、炎はその杖に吸い込まれるように消え去り、室内は再び静けさを取り戻した。
そこには学長と、机の上でちょこんと座る小さなドラゴンのような魔法生物がいた。
「おお、すまんすまん。新しいペットを飼い始めたんじゃが、この子がどうも火遊び好きでのう……」
学長は苦笑いを浮かべながら杖を振り、焦げた家具や壁を魔法で元に戻していく。
「火遊びは危ないですね……」
エマが少し引き気味に言うと、学長は肩をすくめて笑った。
「まあ、それも可愛いものじゃよ。しかしそれはさておき……そこに座りなさい」
エマは促されるまま、部屋の中央にある大きな古いソファに腰を下ろした。ソファは柔らかく、重厚な雰囲気の部屋によく似合っている。
「エマ・ブラウンくん。実は君に提案があってのう」
学長は落ち着いた声で話し始めた。
「君は非常に賢く優秀な学生じゃ。しかし――一年生の頃にも感じたかもしれんが――君には対人魔法、特に攻撃や防御の分野でまだ課題が残っている。そこでじゃ……アルカナ魔法学校の姉妹校であるマーレディア・アカデミーに短期留学してみぬか?」
「短期留学……ですか?」
エマは驚きと共に聞き返した。
「そうじゃ。マーレディア・アカデミーは水の攻撃魔法や防御魔法の実践訓練に特化した学校として知られておる。魔法界ではまだ人間を嫌う者も多い。君がもし困難に直面した時、しっかりと身を守れる術を身につけておくべきだと思うてのう」
学長の真剣なまなざしに、エマは自然と背筋を正した。彼の言葉には重みがあり、自分に期待を寄せていることが伝わってくる。
「どうじゃろう? 行ってみる気はあるか?」
エマは一瞬迷ったが、やがて静かに頷いた。
「……わかりました。ぜひ挑戦してみたいです」
学長は満足そうに頷き、小さなドラゴンを撫でながら言った。
「よかろう。では準備が整い次第、改めて連絡する。期待しておるぞ、エマ・ブラウンくん」
その瞬間、エマは新たな挑戦に胸を高鳴らせながら、マーレディア・アカデミーへの旅立ちを心に決めた。




