26. 歴史の授業
「話は聞いていたよ。君にはすまないことをしたね、カイ・ファルディオンくん」
「魔法生物の飼育施設にいたおじいさん……?」
エマが驚きの声を上げたその瞬間、カイが低くつぶやいた。
「学長……」
「学長!?」
エマはさらに驚いて声を上げた。学長は静かに笑みをたたえながらエマを見つめた後、カイに視線を戻した。
「さて、少しばかり、歴史の授業を始めようかのう」
緊張の中で学長の言葉が静かに響く。
「約800年前、古代魔法による人間界の支配を止めたファルディオン家。彼らは人間界から魔法に関する記憶を完全に消し去り、古代魔法を呼び起こすネックレス――『レクス・ソルヴィール』を代々守ってきた……とされておる。だが、それは作られた歴史に過ぎん」
エマは驚いて学長を見つめる。
「実際に人間界を救い、レクス・ソルヴィールを守り続けてきたのは、ファルディオン家ではなくフェルマール家という一族じゃったのじゃ。フェルマール家の当主が、当時親しかったファルディオン家と協力し、事実とは異なる出来事を世に広めたのじゃ」
「なぜそんな偽りを……?」エマは驚き呟いた。
「簡単なことではないが、危険な遺産であるレクス・ソルヴィールが絶対に見つからないよう動いたのじゃ」
学長は静かに言葉を区切り、やや暗い表情で続けた。
「だが、約10年前、レクス・ソルヴィールを狙った闇の魔法使いたちが現れた。魔力の強い魔法使いを次々と襲い、どこからか得た情報をもとに、ファルディオン家が守っているという噂を疑い始めたのじゃ。さらに、偶然とは思えぬ不幸がフェルマール家を襲った。ある日、長年仕えていた者の裏切りにより、一族は壊滅してしまったのじゃ……」
学長の声が一瞬詰まり、エマは息を呑んだ。
「フェルマール家の血を引く者たちが失われても、レクス・ソルヴィールは闇の手に渡ることはなかった。しかし、その存在を知る者は今やほとんどおらん。そして……レクス・ソルヴィールは現在、このアルカナ魔法学校に隠されておる」
カイが驚愕の表情を浮かべた。
「学長、それは本当なんですか……?」
「本当じゃ。あの日以降、学校で厳重に管理しておる。じゃが、その魔力を完全に遮断するのは難しい。君の父君が微かに感じ取った魔力もその名残じゃろう。いずれ父君には、直接説明しようと思っておった」
カイは拳を握り締め、歯を食いしばった。
「さて、ルイくん、エマくん……カイくんの行動は許されるものではないが、彼が動いた理由の一端はワシにある。学生たちを襲った罪として、彼には停学一週間と、魔力の一時的な封印を課す。これで納得してくれぬか?」
ルイは少し間を置いて答えた。
「……魔力を封じるなら、それで良しとしましょう。ただし、次はありません」
エマもそっと頷く。
学長は目を細め、厳かに言葉を締めた。
「カイくん、君にはこれ以上の迷惑をかけぬと誓ってもらおう。その上で、家系の名誉を取り戻すためではなく、魔法そのものと向き合う心を取り戻してほしい」
カイは小さく頷き、肩を落としたまま学長についていった。
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第一章は残り2話で完結ですが、ストーリーはまだまだ続きます!第二章も頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします!




