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203. エマのソルヴィール

「ルイ、ねえ……嘘でしょ?」


 エマは震える声で呟き、目の前に横たわる彼の姿を信じられずにただ立ち尽くしていた。


「ルイ、どうして……どうして……」


 その声には、耐えきれないほどの悔しさと怒りがこみ上げていた。


 だが、もうそれを問いかけても、返ってくるのは冷たく静かな沈黙だけだった。


 ニヴェラが駆け寄り、無言でエマの肩を支えた。しかし、その目の前に広がる絶望の光景に、彼女もまた言葉を失っていた。


「未来で……私たち、結婚するんじゃなかったの!? ルイ、あの時……時の古代魔法具を使って、私を助けてくれたんじゃなかったの!? どうして、ルイ、どうして……!」


 エマの声は涙でかすれ、震えながらも叫び続けた。その言葉は、ルイが帰らぬ者となった現実を受け入れたくないという、深い拒絶の証だった。


 その時、背後で高らかに、狂気じみた笑い声が響いた。


「ハハハッ! 死んだ! フェルマール家の最後の魔法使いが! これで私は無敵だ!」


 ノスヴァルドの声は、狂気に満ちており、エマの心をさらに深く突き刺した。


「だが、我々の役に立たない魔法使いは要らない……選別が必要だ」


 その冷徹な言葉が、さらにエマの胸を締め付けた。


 その瞬間、ノスヴァルドは杖を天に向けて掲げ、力強く呪文を唱え始める。


「ペトリフェックス!!」


 一瞬、魔法界全体が静まり返り、次の瞬間、眩い光が走り抜けた。それは、まるで世界そのものを覆い尽くすかのように、暗闇から強烈に広がった。


 目を開けたエマは、目の前の光景に凍りついた。


 ニヴェラ、リアナ、教授たち、リーナ、セオ――すべての仲間たちが、まるで石像のように動かなくなっていた。


 そして、石化していないのは、エマ自身と、既に死んだルイ、そしてクロ、ノスヴァルドの部下たちだけだった。


「な、何をしたの!?」


 エマは絶叫した。恐怖と怒りが入り混じり、その声は震えながらも鋭く響いた。


「石にしただけだよ。大丈夫、まだ死んでない。利用価値のある者だけを選別して、石化を解くつもりさ」


 ノスヴァルドは冷ややかな笑みを浮かべ、無慈悲に答える。


「エマ、君には頼みたいことがあるんだ」


 その冷徹な言葉が、エマの胸に重く圧し掛かった。彼女はもう、誰も頼ることができないと感じた。


 そして、今こそ、ただひとりでこの状況を打破しなければならないという覚悟が、次第に彼女を支配していった。


 その時、エマは唯一、頼りにできるものがあることを感じた。それは、首にかけている「ソルヴィール」だった。


 ルイから授かったあの魔法の力。そのネックレスは、今、エマの手の中で新たな力を覚醒させようとしていた。


「おやおや? 私とやり合うつもりかい? そのネックレスで、私に勝てると思っているのか?」


 ノスヴァルドが嘲笑いながら言うが、エマはその目をじっとソルヴィールに向けた。彼女の手が、その魔法具をしっかりと握りしめる。


「エマ、君は知らないだろう。レクス・ソルヴィールの力を。君には絶対に勝てない」


 ノスヴァルドは冷笑を浮かべながら告げるが、エマの心はすでに決まっていた。


 エマはルイが見せてくれた記憶を思い出していた。あの危険な呪文、ルイが教えてくれたもの。


 しかし、何の呪文なのかは、あの時は教えてもらえなかった。だが、今、それを使う時が来たのだと、確信を抱いていた。


 エマは揺るがず、強く決意を固める。


 その瞬間、エマのソルヴィールが強烈に輝き、色と形が変わり始めた。


「な、なんだ!?」


 ノスヴァルドの驚きの声が響く。その輝きは、まるでソルヴィールが新たに生まれ変わるかのように、光を放っていった。


 エマは、呪文を強く、力強く唱える。


「ヴィタ・エーテル・アニムス!!」


 その声が空間を震わせる瞬間、魔法界全体を包み込むような、優しさと温かさの光が広がっていった。


 そして、ノスヴァルドの持つレクス・ソルヴィールが、突如として強烈に輝き始め、まるで魂が宿ったかのように震えだした。


「どうなっている――!?」


 ノスヴァルドは驚愕し、必死にレクス・ソルヴィールを取り外そうとするが、それも虚しく、彼は浄化されていった。


「何をした――!?」


 ノスヴァルドの声が絶叫に変わるが、浄化の光に包まれ、たちまち消滅した。


 その瞬間、ノスヴァルドが生み出したすべての存在も消え去り、リチャードとヴィクターはただその光景を見守るしかなかった。


 その後、レクス・ソルヴィールは瞬時に魔法界を照らし、石化していた仲間たちを解き放った。


 目を覚ましたニヴェラやリアナたちは、何が起きたのか理解できないままでいた。


 だが、学長が倒れているのを見て、すぐに反応し、急いで呪文を唱えてリチャードとヴィクターを拘束した。


 エマは、血まみれで倒れたルイを支え、彼の手を握る。


「ルイ……ちゃんと使えたよ、ソルヴィールの力……」


 エマは、自分のソルヴィールを片手で強く握りしめる――本来の姿を取り戻した「魂の古代魔法具」を。

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