201. 焦燥
「と、時の古代魔法具が……」
ノスヴァルドは胸元の砕け散ったネックレスを見つめ、低く呟いた。
「遊んでいるから、こうなるのよ」
冷ややかな声が響く。少女がノスヴァルドを一瞥し、言い放った。リチャードは言葉を失ったまま立ち尽くしている。
「ルイ……古代魔法具が……」
エマは小さく呟いた。
「古代魔法具は、すべて揃えたうえで、破壊するかどうかを決める約束だった。それに、時の古代魔法具を使ってオルケードを元に戻すはずだった……」
ルイはわずかに表情を曇らせ、申し訳なさそうに続ける。
「エマ、ニヴェラ……本当にすまない」
「……」
ニヴェラは沈黙したままだった。悔しいが、こうするしかなかったと理解している。
「でも、これで――」
エマが口を開こうとしたその瞬間――
ノスヴァルドの体から禍々しい魔力が吹き出した。
「ああ!! もう、絶対に許さない……!!」
怒りに満ちた叫びが響く。ノスヴァルドはルイを睨みつけ、その名を呼んだ。
「憎きフェルマール家の最後の生き残り……レオン・フェルマール!!」
ノスヴァルドは杖を振ると、宙に大きな映像が浮かび上がる。
そこに映し出されたのは、隣の都市に滞在するアルカナ魔法学校の学生たちと教授たち、そして――ロンドンで暮らすエマの両親。
「っ……!?」
エマとルイは、言葉を失った。
「フフフ……ハハハッ!! さあ、渡してもらおうか!! レクス・ソルヴィールを!!」
ノスヴァルドの唇が歪む。
「渡さないなら……私の可愛い部下たちが、こいつらを皆殺しにするよ?」
ルイは視線を落とし、焦燥の色を浮かべる。エマは、友人や家族が人質に取られているという事実に、声も出せない。
「ルイ、どうする気だ!?」
ニヴェラが叫ぶが、ルイは何も答えなかった。
沈黙の中――ルイは決意を固め、首元からレクス・ソルヴィールを外す。
「レクス・ソルヴィールを渡せ!! さあ!!」
ノスヴァルドの声が響く。
そして――
ルイは、ノスヴァルドにレクス・ソルヴィールを投げ渡した。
「そんな……」
リーナが小さく息を呑む。
ノスヴァルドはレクス・ソルヴィールを手にし、高らかに叫んだ。
「レクス・ソルヴィール!! やっと私の手に!!」
その瞬間、ノスヴァルドの首にかかったレクス・ソルヴィールが禍々しい光を放つ。
邪悪な、闇のような輝き――
「くっ……やはり、すぐに扱うのは難しそうだねえ……」
ノスヴァルドは不気味な笑みを浮かべ、低く呟く。
彼の背後では、部下の少女とリチャードが静かに笑みを浮かべていた。
エマ、ニヴェラ、リーナ、セオ――彼らは、為す術もなく、ただその光景を見つめることしかできなかった。