200. ルイの決断
「リチャード、早く起きろ!!」
そう叫んだのは――ノスヴァルドだった。
遠くに吹き飛ばされていた魔法連盟の幹部リチャードは、ゆっくりと起き上がり、ノスヴァルドのすぐ後ろへとやってきた。
「緑の古代魔法具を使いこなせてないようだねえ」
「申し訳ありません」
ノスヴァルドとリチャードのやり取りを見て、ルイとエマは驚愕する。
「リチャード!? まさか、闇の魔法使いと……!?」
エマは驚きの声をあげる。ルイは冷静だが、険しい表情をしていた。
「古代魔法具……」
ルイは呟いた。
「奴ら、何の古代魔法具を持っているんだ?」
ニヴェラは、ルイに尋ねる。
「リチャードが緑の古代魔法具、あの少女が闇の魔法使い。そして、ノスヴァルドが――時の古代魔法具だ」
「!?」
その場にいたエマ、ニヴェラ、リーナ、セオは驚愕する。
「そんな……! 時の古代魔法具を持つ者になんて……どうやって勝つんだ!? しかもあいつ、相当な魔力量だ! かなり手強いぞ」
セオが叫ぶ。
ルイは少し考えてから口を開いた。
「時の古代魔法具は危険だ。しかし、その力を扱うのも難しい。戦いながら考えるしかない」
「ノスヴァルド、前に戦った時より魔力が強くなってない!?」
エマは焦りの声を上げる。
「ノスヴァルドは、学長の魔力を身にまとっているようだ。かなり手強いが、やるしかない」
ルイは決意を固め、始まりの杖を天に掲げる。
その瞬間――
ルイの胸元のネックレスが強い輝きを放ち、本来の姿、レクス・ソルヴィールへと変わる。
圧倒的な魔力が解放されると、空間が軋みを上げた。杖の先端には、雷のように脈動する純粋な魔力が凝縮され、空気がビリビリと震える。
「アストラリス・オブシディオ!!」
ルイが呪文を唱えた瞬間、眩い魔力の奔流が放たれた。
それは一直線に放たれるのではなく、まるで生き物のように脈動しながら暴れ回る。幾筋もの魔力がギザギザに枝分かれし、空間を裂くようにして四方八方へと広がっていく。
雷のような閃光が地を駆け抜け、建物の壁を引き裂き、橋を砕き、空中都市エテルの中心部を貫いた。主軸となる魔力の奔流は、地面を引き裂くように伝播し、都市の構造そのものを軋ませる。
「くっ――!」
ノスヴァルドたちは咄嗟に防御魔法を唱えようとするが、魔力の奔流はそれを打ち砕くように襲いかかる。衝撃波が広がり、彼らの体を後方へと吹き飛ばした。
建造物が次々と崩れ、空中都市の基盤そのものに深い亀裂が走る。もはや耐えきれず、巨大な建造物が音を立てて崩壊し始めた。
轟音とともに都市の一部が崩落し、崩壊した建材が次々と落下していく。
「……!!?」
エマ、ニヴェラ、リーナ、セオは、レクス・ソルヴィールの力の恐ろしさを目の当たりにし、言葉を失った。
ノスヴァルドたちは地面に叩きつけられ、崩落する都市の瓦礫の中に飲み込まれていったかのように見えた。
しかし――
次の瞬間、空間が歪み、ノスヴァルドたちは無傷のまま目の前に再び現れる。
「なっ……!?」
ニヴェラが驚愕する。ルイは険しい表情でノスヴァルドたちを見据えた。
「さすがレクス・ソルヴィール……!!! しかし、時の古代魔法具の力で我々は、体の時間を戻すことができる!」
「時間を……!? 致命傷を負って、すぐに巻き戻したということ……!?」
リーナが唖然とした声を漏らす。
ルイは冷静に呟いた。
「こうなると厄介だな」
ノスヴァルドたちは、杖を掲げ、呪文を唱えようとする。
その瞬間、ルイはエマとニヴェラの方を振り向いた。
「エマ、ニヴェラ。すまない」
「――!?」
エマが問いかける前に、ルイはノスヴァルドたちへと向き直り、始まりの杖を掲げる。
「ヴォルテックス・オブリヴィオン!」
レクス・ソルヴィールが不気味な輝きを放ち、ルイの放った魔法が闇の魔法使いたちを飲み込んだ。
その瞬間――
ノスヴァルドの首にかけられていた時の古代魔法具、リチャードの緑の古代魔法具、少女の闇の古代魔法具が、悲鳴を上げるように激しく輝いた。
狂ったような轟音とともに、各魔法具に嵌められた天然石が砕け、世界が崩れるかのような衝撃が走る。
「――!?」
ノスヴァルドたちは目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。
彼らの古代魔法具は、一瞬にして崩壊した。
ノスヴァルドの強大な魔力も、ついに限界を迎えようとしていた。