2. 新しい家族
「あれ? お母さんは?」
「ルイくんのお洋服を買いに駅の方まで出かけたよ。エマの服はやっぱり少し小さかったみたいでね」
エマがまた外でマックスと遊んでいる間に、エミリーは出かけ、部屋にはトーマスとルイの二人だけになっていた。
ルイは上着だけ着替え、紅茶を飲んでいるようだ。
幼いエマも、ルイには両親がいないということを聞き、ルイのことを心配して様子をみにきたのだ。
「ねえ、犬さん好き?」
「まあ」
「猫さんは?」
「エマ、ルイくんは今疲れてるみたいだから、ゆっくり休ませてあげてね」
トーマスは、エマがルイに質問攻めしないよう声をかけたが、エマはそのままルイに話しかけた。
「お父さんとお母さん……帰るお家が無いなら、ロンドンのお家にいっしょに帰ろうよ」
「……え?」
「犬さんはいないけどね、猫さんはいるんだよ。猫さん、帰るお家が無くて家で引き取ったんだ。ルイくんもおいでよ」
「エマ、猫さんをお家に迎えるのとは全然違うんだよ」
ルイは一瞬だけ驚いた表情をしたが、少し考え事をしているようだった。トーマスは、落ち着いたらルイのことを警察に相談するつもりでいたため、ルイを家に迎え入れるなんてことは考えてすらいなかった。ところが、エマの提案を聞き、ルイが自分から喋りだしたのだった。
「……一緒に行きたいです。ロンドンの家。両親も、帰る家も無いんです。お金ならあります。少しの間だけでも、ご迷惑でなければ」
トーマスは驚いた。エマよりほんの少し年上ぐらいの男の子が、とても真剣に、礼儀正しく、一緒に住みたいと言ってきたのだ。養子として迎え入れるかどうかは別にして、しばらく家に泊めるぐらいは全く問題無いだろう。こんな小さな男の子が家族も家も無い、いや、きっとつい最近失ったのだ。
「わかった。じゃあ、明日一緒にロンドンのお家に帰ろうか。ロンドンに帰ったら、ルイくんのこと、もっと色々おしえてね。ゆっくりで大丈夫だから」
「ありがとうございます」
どこか悲しそうな顔をしているルイと、彼を心配するトーマス。その横で、エマは嬉しそうにしていた。
「ロンドンに帰ったらいっぱい遊ぼうね!」
兄弟の欲しかったエマにとって、ルイはすでに新しい家族だったのだ。
こうして明日から、ルイとのロンドンでの生活が始まるのである。ルイが魔法使いであるとは、まだ知らずに。