表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/207

196. 生まれた魔法

 空中都市が悲鳴を上げるように揺れ、あちこちで瓦礫が崩れ落ちていく。


 光の古代魔法具の衝撃は、都市の根幹すら揺るがしていた。


「……このままだと、都市ごと落ちる……!」


 エマは広がる裂け目を見つめ、息をのむ。

 彼方の空には、宙を漂う無数の瓦礫。

 倒れた人々の姿も見える。


 ——もし、このまま都市が崩壊したら。


 海へと真っ逆さまに落ちる何千もの命。

 その結末を想像し、エマは唇をかみしめた。


「ルイ……!」


 その名を呼んだ瞬間。


 ルイはすでに動いていた。


 杖を天へ掲げ、圧倒的な魔力を解放する。


「……この都市を支える」


 低く静かな声だった。


 ——次の瞬間、彼を中心に巨大な魔法陣が展開される。


 それは空中都市全体を包み込むほどの規模だった。


「グラヴィタス・エテルナ……!」


 重力の支配を超え、空間を固定するための魔法。


 青白い光の奔流が、都市の基盤を覆い尽くしていく。

 崩れかけた地面がわずかに安定し、落下速度が鈍る。


 しかし、それだけでは足りなかった。


「……私も手伝う!」


 ニヴェラが、首にかけた風の古代魔法具を強く握りしめる。


 ネックレスの中央に埋め込まれた宝珠が淡く光り、その輝きが次第に強くなっていく。


 彼女の髪が風に舞い、衣が揺れる。


「ヴェントゥス・フォルティス!」


 金色の風が巻き起こる。


 ニヴェラの魔力が都市全体を包み込み、風の流れを操る。

 まるで空を抱くように、上昇気流が生まれ、落下の勢いを抑え込んだ。


 ——二つの力が交わる。


 ルイの重力魔法と、ニヴェラの風の魔法。


 それでもまだ完全には安定しない。


「……私のせいだ……」


 かすれた声が聞こえた。


 エマが振り返ると、反乱軍のリーダーがゆっくりと目を覚ましていた。


「……私が、古代魔法具を……」


 彼は虚ろな瞳で、地面に転がっている光の古代魔法具を見つめていた。


 その表情には、後悔の色が滲んでいた。


「それより、この街の修復魔法を……!  少しでも地盤をもとに戻して安定させなきゃ! 急いで!」


 エマは思わず叫んだ。


 リーダーはハッと目を見開き、震える手で杖を握る。


「……了解だ」


 彼は、古代魔法具ではなく、自らの魔力を解放した。


 大地を修復する魔法が発動する。


 光がひび割れた地面を這い、崩壊を食い止めるように包み込んだ。


 しかし、それでも、まだ足りない。


 都市のあちこちで崩壊が進み、支えきれない場所が生まれ始めていた。

 

 このままでは、また時間の問題で崩れ落ちる——


(何か……何かもっと強い力が必要……!)


 エマの心が、切実にそう叫んだそのとき。


 ——脳裏に、聞いたことのない呪文が浮かんだ。


 誰かの声が、耳元で囁いたような気がした。


(……これは……?)


 考えるよりも先に、言葉が口をついて出た。


「ヴィタ・マーテル!!」


 光が爆発した。


 それは、これまでのどの魔法とも違う——


 眩い黄金の光が、都市全体に広がっていく。

 地面が脈打ち、まるで生きているかのように震え始めた。


 割れた地盤が自らの意思を持つように繋がり、瓦礫が元の形を取り戻していく。


 崩壊していた場所が、自らの力で修復されていく。


 ルイとニヴェラは息を呑んだ。


 エマの魔力では説明できないほどの、強大な力。

 しかし、それは確かに彼女の中から生まれた魔法——


 そして——


 空中都市エテルは完全に安定し、空に浮かぶ都市としての姿を取り戻していた。


 だが、その場にいた誰もが、ある疑問を抱いていた。


 ——今の魔法は、いったい何だったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ