190. 光
エマの様子を横目で確認しながら、ルイが低く静かに口を開いた。
「俺が、全員の動きを止める」
「全員の……?」
エマは思わず息を呑んだ。
「二人とも、ここで待っていてくれ。すぐに戻る」
それだけを告げると、ルイは学長から授かった始まりの杖を手に取り、瞬間移動でその場から消えた。
——そして、天空が裂けた。
澄んだ青空のはずだった。
だが、突然、暗雲が渦巻くように広がり、空そのものが歪むような轟音が響き渡る。
そして——。
稲妻が奔った。
幾千もの雷の矢が雲の中で炸裂し、ついには——都市全体を包み込む雷鳴が、空を揺るがした。
ゴォォォォォォッ!!
閃光。轟音。大気が震え、地面が揺れる。
まるで空そのものが、怒りに満ちた神の手によって引き裂かれたかのようだった。
エマは目を見開いた。
「嘘……!!」
遠くから見ていたエマとニヴェラ、クロは、眩しさに思わず顔を背ける。
午後の陽光すらかき消すほどの、圧倒的な雷光。
——そして、次の瞬間。
すべてが静寂に包まれた。
都市は沈黙し、風すら動かない。
ルイが瞬間移動で戻ってくる。
「ルイ、何をしたの?」
エマは息を整えながら尋ねた。
「攻撃じゃない。全員を止めた。それだけだ」
ルイの声は冷静だった。しかし、その視線は遠く、何かを警戒しているようだった。
エテルの街では、誰もが雷の余韻に呑まれ、動くことすらできていない。
だが、その沈黙は、長くは続かなかった。
——次の瞬間。
空中都市の中心部。魔法連盟本部のすぐ近く。
世界を貫くような、純白の光が放たれた。
それは雷とは違う。
燃え盛る炎とも、砕け散る雷とも異なる。
ただ、そこに存在するだけで、世界の理をねじ曲げるような、純粋な光だった。
空を切り裂き、大気を震わせ、あまりの強さに都市全体が光に飲み込まれていくような錯覚を覚える。
ルイは険しい表情でその光を見つめる。
「……やはり、あったか」
エマは、その言葉の意味を問う間もなく、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
これは、ただの魔法ではない。
光の古代魔法具の力だ。