19. 人間狩り
「どうして教えてくれないのよ! アーク・カレッジのルイ様と知り合いだって! 知り合いどころじゃないわ、部屋にいたんだもの!」
ルミナス・カレッジのダイニングホールで夕食を食べながら、エマはソフィアから質問攻めにあっていた。
「ルイは……幼馴染で……」
エマは苦笑いを浮かべながら曖昧に答える。どうやらルイは、最年少で特別試験に合格してアーク・カレッジに所属したことで学内でも有名人らしい。
(初めてアルカナ魔法学校に来た時、やたら視線を感じたと思ったけど……今思えば、あれはルイが一緒にいたせいだったのかもしれない……)
「そんなの、もっと早く言ってくれればよかったのに!」
ソフィアはパンをちぎりながらエマを睨む。
「いや、特に言う必要もなかったし……」
「何言ってるの! あのルイ様よ? アーク・カレッジのルイ様と幼馴染なんて、普通の学生ならそれだけで一目置かれるのに!」
エマは返す言葉が見つからず、曖昧に笑ってごまかした。その時だった――。
「みんなー!」
突然、ルミナス・カレッジの上級生がダイニングホールへ飛び込んできた。声には緊迫感があり、ホール中の注目を集める。
「レガリア・カレッジの三年生が、人間と疑われて襲われたらしいぞ! 新入生以外も気をつけろ!」
その瞬間、ホールがざわつき始めた。
「新入生以外にも人間がいるの?」
「怖い……次は誰が襲われるのかしら」
「魔法の世界に人間なんて来るから、こんなことになるんだよ」
周囲から聞こえてくる声に、エマは小さく身を縮める。
「学内でこんなに人が襲われるなんて……怖いわねえ」
隣のソフィアが震える声で呟く。しかし、エマは何も言えなかった。
(私のせいだ……)
手の中のスプーンがひんやりと冷たく感じられた。エマはそっと視線を下げ、心に広がる重苦しい感覚を押し込めようとした。
「ちょっと疲れたから、部屋に戻るね」そう言って、エマはダイニングホールを後にした。
エマは、ルミナス・カレッジのすぐ近くに広がる庭園へと向かった。切りそろえられた芝生の緑が鮮やかに広がり、その向こうには木々が並ぶ小道が続いている。
「私がここに来なければ、こんなことにはならなかったのに……」
エマの目には、学校の庭園が妙に遠い世界のように映った。
木々の間から、不意に影が揺れた。エマは立ち止まり、じっと暗闇を見つめる。
「誰……?」
小道の先から、長いローブをひらめかせながらレガリア・カレッジのカイ・ファルディオンが現れた。月明かりが彼の顔を照らし、その表情は冷たいがどこか好奇心に満ちている。
「君、人間だよね?」
その言葉は、冷たい風のようにエマの心を揺らした。