189. 戦争
ルイは宿に戻り、部屋に入ると、ちょうどエマも目を覚ました。
「あれ? ルイ、どこか行ってたの?」
「少し朝日を浴びてただけだ」
「そっか、私もすぐ出れるように準備するね」
エマはベッドから降り、身支度を始めた。
少ししてから、隣の部屋に泊まっているニヴェラとも合流し、三人はクロに乗って空を飛び、空中都市エテルへと向かった。
エテルへと向かう途中、ルイが話し始める。
「エテルに着く前に、俺たちに透明魔法をかける。それから、もう少ししたら魔力を消そう」
「姿を消して、まずは戦いの様子を見学するってわけか」
「そうだ。ニヴェラの風魔法も強力だから、しばらくは使わないでいこう」
「わかった」
空中都市エテルに近づくにつれ、戦いの轟音が耳に届き始めた。
街の上空を漂う浮遊都市が、煙と爆音に包まれている。その光景は、まるで魔法と破壊が交錯する地獄のようだった。
「見えてきたな」
ルイが静かに言う。
浮かんだ都市の周囲には、激しい魔法の衝撃が音を立てて炸裂している。
「見て、ルイ……」
エマが目を凝らしながら言った。
浮遊都市の上空では、魔法使いたちが魔法を操りながら、激しく交戦している。
反乱軍の魔法使いが大きな竜を召喚し、空を舞わせて魔法連盟の防衛軍に火を吹かせる。その炎が空に大きな軌跡を描き、瞬く間に防御壁を打ち破る。
「数週間、ずっとこんな状態だなんて……」
エマは呆然と見つめる。遠くで見ているだけでも、空気が重く感じられる。
ルイは静かに頷く。
「反乱軍も魔法連盟も、どちらも全力を尽くしている。エテルが沈黙すれば、魔法界全体に影響が出るからな」
「これが……魔法界の戦争か」
ニヴェラが言葉少なに呟く。その目は、戦場のすべてを見逃すまいと凝視している。
その時、反乱軍の魔法使いが上空から降下し、巨大な魔法の盾を展開。直後、魔法連盟の飛行部隊がその盾に向かって強力な光のビームを放ったが、盾はまるで鉄壁のようにその攻撃を跳ね返す。
「すごい……」
エマは思わず声を漏らす。その戦いのスピードと規模、そして破壊力に圧倒されていた。
しばらく見守っていたが、エマは次第に心の中に重苦しい感覚を覚え始める。
「早く終わらせなきゃ……」
エマが静かに呟いた。
戦いの光景を見ながら、彼女の心の中で何かが決意に変わり始める。