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エマと魔法使いのレオン 〜魔力を与えられた少女〜  作者: 希羽
第八章 クロノス・アビス
184/207

184. 未来で

 次に目を覚ましたとき、エマは冷たい石の床に倒れていた。


「……ここは……?」


 ぼんやりとした視界の中、周囲を見渡すと、古びた石造りの部屋の中にいた。


 窓はなく、唯一の出口と思われる頑丈な扉が目の前にある。


 手を動かそうとしたが、冷たい金属の感触が腕にまとわりつく。


「これは……」


 エマの両手首には、見たことのない魔法陣が刻まれた手枷がはめられていた。


「魔力封じ……?」


 足音が近づく音がした。


 扉が重々しく開き、数人の男たちが姿を現した。その中の一人、長いローブを羽織った魔法使いがゆっくりとエマに近づく。


「目が覚めたようだな、エマ」


 エマはぎゅっと唇を噛みしめる。


「あなたは……誰?」

「私の名は関係ない。だが、お前のことはよく知っている」


 男の目が鋭く光る。


「お前がこのまま生き続ければ、いずれ魔法界に災いをもたらす。だから、おとなしくしてもらう」

「……何を言ってるの?」

「魔法界にとって、お前は危険な存在だ。だから——」


 男が手を挙げると、再び魔力の波動が走った。


 エマの体がずしりと重くなり、再び意識が遠のいていく。


 しかし——。


 エマの内側から突き上げるような熱が走った。


(……なに、この感じ……)


 反射的に魔力を込めると、瞬く間にエマの周囲の空間が震え、壁が軋みを上げる。


 バチッ! 


 眩い閃光とともに、圧倒的な魔力が弾けた。


 手枷に刻まれた魔法陣が砕け、強烈な衝撃波が部屋全体を揺るがす。


 眼の前の男たちが驚愕の表情を浮かべ、立っているのがやっとの状態になった。


「なっ……こいつ、魔力を封じていたはず……!」

「どうして……っ!」


 彼らの膝ががくりと折れ、床に手をつく。その顔には明らかな恐怖が宿っていた。


 しかし、エマはふと我に返る。


(あれ……? 私、ソルヴィールを身に着けてないのに、魔力が……ある!? どうなってるの!?)


 そのとき——。


 バチッ、と青白い雷光が弾けた。


 次の瞬間、部屋の中の空気が凍りつく。


 ――圧倒的な魔力。


 それを感じ取った瞬間、エマの目の前で何かが弾けるような音が響いた。


 ローブの男たちが次々と吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 残った数人が慌てて杖を構えるが、その動きよりも速く、青白い刃のような魔力が奔り、彼らの杖ごと弾き飛ばす。


「こ、この魔力……!」


 男たちは必死に立ち上がろうとするが、膝が震え、崩れ落ちる。


 エマはその光景を呆然と見つめた。


 部屋の入り口に、青白い光を纏うルイが立っていた。


「ルイ……!」


 エマが名前を呼ぶと、彼はほんの僅かに微笑んだ。


 しかし、次の瞬間、彼の表情は険しくなり、鋭い視線で倒れ込んだ男たちを一瞥する。


「……時間がない」


 ルイが手を振ると、周囲に残っていた魔力が吸い込まれるように消えていく。


 そして、彼は素早くエマのもとへ歩み寄り、軽く手をかざした。エマの周りに残っていた魔力の余波が静かに霧散する。


「エマ、大丈夫か?」


 その優しい声に、エマは胸が熱くなる。しかし、彼の目の奥に浮かぶ切なげな光に気づき、不安が胸をよぎった。


 ルイは少しだけ躊躇うような仕草を見せた後、ふっと短く息をついた。


「エマ、ここでお別れだ」

「えっ……?」


 ルイの言葉が信じられず、エマは彼の顔を見つめた。


「未来で知ったこと、見たことは、誰にも言うな」


 彼の声は穏やかだったが、その裏に何かを決意したような固い意思が感じられた。


「未来でまた会おう」


 その言葉とともに、ルイは呪文を唱える。


「クロノス・ディアヴァシ」


 その瞬間、青白い光がエマを包み込む。


「ルイ……待って……!」


 必死に手を伸ばそうとするが、体はもう力を失っていた。視界がぼやけ、意識が遠のいていく。


 最後に見えたのは、優しく微笑むルイの姿だった。


 エマの視界は、ゆっくりと闇に沈んでいった――。

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