182. 時間
ルイに案内された部屋は、シンプルながらも落ち着いた客室だった。エマはソファに腰を下ろし、ルイを見上げる。
「ルイ……身長、伸びた?」
「……12年も経ってるからな」
ルイはすべてを理解しているようだった。エマが過去から来たことも、今の状況も。
「12年……ってことは、ルイは29歳?」
「ああ」
「レクス・ソルヴィールはどうなったの!?」
エマが勢いよく身を乗り出す。
「落ち着け」
「でも――」
「未来のことは、これ以上知らない方がいい」
ルイの静かな言葉に、エマは戸惑った。
「……どういうこと?」
「お前が未来の情報を知り、それをもとに行動を変えれば、時間が歪む可能性がある」
「時間が歪む……?」
「そうだ。小さな変化でも、どこかで影響が出る。些細な違いが、思わぬ結果を招くこともある」
「……」
「幸い、お前はまだこっちに来たばかりだ。急いで戻れば大丈夫だ」
「よかった……」
「ここはロンドンだ。今から魔法界へ行こう」
「わかった。ありがとう、ルイ」
ルイとエマはリビングに戻り、ルイは女性と子供たちに「少し出かけてくる。すぐ戻る」と伝えた。
子供たちは「一緒に行きたい!」と駄々をこねたが、なんとか説得して留守番してもらうことにした。
ルイは廊下の床に手をかざす。すると、魔法の光が走り、床に隠されていた地下へ続く階段が現れた。
「こっちだ」
ルイはそう言い、先に降りていく。
地下の隠し部屋には、ソファやテーブル、暖炉があり、その横にフェリスパウダーの壺が置かれていた。
「行くぞ」
ルイは暖炉の中へ入り、エマもその隣に立つ。ルイがフェリスパウダーをひとつかみ取り、ゆっくりと宙に放った。
細かな粒子が煌めきながら舞い上がる。瞬く間に光が渦を描き、二人を包み込んだ。
視界が虹色に染まり、世界が揺らぐ。
次の瞬間、二人の姿は消え去っていた。