181. 質問
エマは寝室のベッドに横になりながら、ぼんやりと考えていた。
「聞きたいことは山ほどあるけど……とにかく、今の状況をルイに伝えないと」
そう独り言を呟いた瞬間、寝室のドアがノックされた。
「母様、紅茶を入れたけど、飲む?」
扉の隙間から顔を覗かせたのは、先ほど自分を「母」と呼んだ男の子だった。
「……うん、ありがとう」
エマが答えると、少年は扉を大きく開けて部屋へ入ってきた。その背後には、年配の女性が控えている。トレーの上には湯気の立つ紅茶が載っていた。
(誰……?)
エマは見知らぬ女性に驚いたが、少年は何も気にした様子もなく、紅茶をベッドサイドのテーブルに置いた。
「ゆっくり休んでね」
そう言うと、彼は部屋を出ていき、女性も静かに一礼して扉を閉めた。
(もしかして……お手伝いさん?)
新たな疑問が湧き上がる。とりあえず、出された紅茶を口に含む。
「……美味しい」
優しい香りが広がり、エマは少しだけ落ち着いた。
しばらくして、ベッドを降りたエマは、部屋の片隅に置かれた姿見に目を向けた。
そこに映っていたのは、髪を後ろで束ねた大人びた自分――。
「これが……未来の私?」
ふと首元に目をやる。そこにあるはずのものが、ない。
「ソルヴィールが……ない!?」
エマの心臓が一気に高鳴った。
しかし、すぐに冷静になろうと深呼吸をする。
「……いや、無くしたわけじゃないはず。多分ここはイギリスだし……」
考えても答えは出ない。今は状況を整理するほうが先だ。
エマは意を決して、一階へ降りた。
階段を降りると、すぐに小さな女の子が駆け寄ってきた。
「お母様、体調悪いの?」
少女が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ごめんね、ちょっと風邪かも」
エマは微笑みながら答えた。少女は安心したようにエマの手を握る。
リビングへ入ると、ルイと男の子が並んでソファに座り、本を読んでいた。キッチンでは、先ほどの年配の女性が食器を片付けている。
ルイがすぐにエマの姿に気づき、声をかけた。
「エマ、まだ休んでいたほうがいいんじゃないか?」
エマはルイをじっと見つめた後、意を決して口を開く。
「ルイ……ニヴェラとクロは、今どうしてるの?」
その質問を聞いた瞬間、ルイの表情が一変する。
「……エマ、ちょっと二人で話そうか」
ルイは年配の女性に「子供たちを頼みます」と告げ、エマを別の部屋へと促した。